もう一度、やり直せるなら。
そしたら、私は救われたかな。
なんて、考えてみたって何かが変わる筈もないのに。
それでもあの思い出を、忌々しい記憶を蘇らせてしまうのは、私が弱いからなのか。
あの日、有紀は数学オリンピックで優勝できなかったのに。
人一倍努力家でプライドも高かった有紀は、心底悔しいだろうに。
それなのに。
『そんなの、どうだっていいんだよ。ただ、今私が生きていて、隣に晴夏がいる、それだけで、私は毎日が楽しいんだ。』
なんて言って、笑い飛ばせるあの子に、私は______。
あの頃みたいに、嫉妬に揉まれて、感動に包まれて、絶望も希望も、全部が愛しくて。
有紀みたいになれないと解ってたけど、それでもまだ夢の中にいた私と、真っ直ぐ前を見つめていた有紀。
底無し沼を駆ける私と、空に向かって飛び上がる有紀。
追い付けない。天才と凡人は紙一重じゃない。
天才の隣には天才がお似合いだ。
私なんかじゃあ、話にならない。
ただの見世物のような現実。
でも。
その違いが、見えていなかった私がそこにいた。
あの時の、海吉晴夏を弔う。
“ 私は、ずっと有紀になりたかった。”












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!