【フィリックス side】
スマホの中にまだ残ってるんだ。
“あの日”の音。
ベッドの上でぐしゃぐしゃに泣いた声も、
ヒョンジナの舌打ちも、
そのあと続いた小さな「ごめん」も。
ボイスメモのNo.5。
削除ボタンは、相変わらず、押せないままだ。
⸻
夜明け前、玄関が開く音に飛び起きて、
聞かなくてもいいのに、聞いた。
彼は無言で僕を見て、悪びれもせず笑った。
あの地獄みたいなスマイルで。
喉の奥がキュッと締まる。
怒りじゃなくて、不安。
心臓が嫌な音を立てる。
でも僕は笑う。平気そうな顔で。
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彼のキスはいつも甘くて、苦い。
首筋に触れた唇が、
まるで「所有」を刻むようで。
そのくせ、朝には他の子の香水が、
彼の服からふわっと香ったりもする。
でもそれでも、
彼が僕の名前を呼ぶと、
すべてが許せてしまう。
イカれてるのは、きっと僕の方だ。
⸻
そう言ったとき、
ヒョンジンは少しだけ悲しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、僕の心はまた、
彼に引きずられる。
⸻
誰にも言えない。
ここはパラダイスなんかじゃない。
嘘も、秘密も、嫉妬も、全部混ざり合って――
それでも「問題ないよ」って自分に言い聞かせる。
愛してるって言われなくても、
「どこにも行かないで」って願ってしまう。
⸻
ボイスメモのNo.5。
あの日の声が、まだ僕を責める。
「ごめん」なんて言わないでよ。
君の不器用さくらい、もう慣れてるから。
だって、僕はきっと――
完璧じゃないけど、
君にとっての”perfect”なんだと思いたいんだ。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!