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第1話

前編
292
2025/07/29 05:50 更新
【フィリックス side】


スマホの中にまだ残ってるんだ。
“あの日”の音。
ベッドの上でぐしゃぐしゃに泣いた声も、
ヒョンジナの舌打ちも、
そのあと続いた小さな「ごめん」も。
ボイスメモのNo.5。
削除ボタンは、相変わらず、押せないままだ。








F
F
ヒョンジナ、どこ行ってたの?
夜明け前、玄関が開く音に飛び起きて、
聞かなくてもいいのに、聞いた。
彼は無言で僕を見て、悪びれもせず笑った。
あの地獄みたいなスマイルで。

H
H
F
F
……誰と?
H
H
誰でもいいだろ?


喉の奥がキュッと締まる。
怒りじゃなくて、不安。
心臓が嫌な音を立てる。

でも僕は笑う。平気そうな顔で。
F
F
そっか、何でもないならよかった






彼のキスはいつも甘くて、苦い。
首筋に触れた唇が、
まるで「所有」を刻むようで。
そのくせ、朝には他の子の香水が、
彼の服からふわっと香ったりもする。

でもそれでも、
彼が僕の名前を呼ぶと、
すべてが許せてしまう。

イカれてるのは、きっと僕の方だ。







H
H
リクス、信用なんてすんなよ
F
F
してないよ。
信用してたら、こんなに怖くならない
H
H
じゃあ、なんで離れない?
F
F
……Maybe cuz I’m perfect for you


そう言ったとき、
ヒョンジンは少しだけ悲しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、僕の心はまた、
彼に引きずられる。









誰にも言えない。
ここはパラダイスなんかじゃない。
嘘も、秘密も、嫉妬も、全部混ざり合って――
それでも「問題ないよ」って自分に言い聞かせる。

愛してるって言われなくても、
「どこにも行かないで」って願ってしまう。







ボイスメモのNo.5。
あの日の声が、まだ僕を責める。
「ごめん」なんて言わないでよ。
君の不器用さくらい、もう慣れてるから。

だって、僕はきっと――
完璧じゃないけど、
君にとっての”perfect”なんだと思いたいんだ。

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