すちside
お風呂の鏡で見る自分の体
気持ち悪い
こんな傷だらけの俺なんて大嫌いだ
でも、あの人の扱い方が正しい
俺は奴隷、奴隷、奴隷。
仕方がない
…久しぶりに腕、切ろうかな
売られる前の牢屋のような部屋の中には、ガラスの破片とかが沢山落ちていて、辛くなったり、ストレスが溜まったりした時によく切っていた
赤い血の色が好き
お母さんの顔はよく覚えていないけど小さい時、見たその目は優しくて赤い色だった気がするから
お風呂に入った後キッチンへ行ってナイフを出す
ザクッ
ポタポタ
切りながら言い聞かせていた
どれだけ今が辛くても、苦しくても、
頑張っていれば、足掻いていれば、耐え忍んでいれば、
いつか、いつかはって
全部諦めたつもりだったけど心のどこかではそう思っちゃってた
でも最近はもうよく分からなくなっちゃったよ
いつかっていつ?
そんなの待ってたって来ないよ
本当は死にたかったら死ねる環境だった
ガラスで首を切ってもいいし、縄だってあったから首を吊ればそれで良かった
いつだって死ねる
だから死ぬのは今日じゃなくてもいい
あるはずのない未来を願って、叶わない夢を見る。
疲れたなぁ
もう、充分頑張ったんじゃないかな
このナイフを首か腕に刺せば死ねる?
心はもうとっくに死んでたんだ
首にナイフをあてようとしたとき
いるま様が来た
手際良く止血とかをしてくれる
顔がよく見えない
怒ってるような、心配しているような声な気がする
今まで誰も心配してくれなかったからなんて言えばいいか分からない
言いたいよ
でも、辛い、苦しいって口にしたら自分の弱さを知らしめられる気がして
1度泣いてしまったらもう、愛想笑いすらできなくなってしまう気がして
怖い
顔を見ることも、見せることも出来ないまま部屋を出る
ダメだ…ダメだ…
どんなに苦しくて死にたくても、絶対に他人を道連れにしてはいけない
下を向いて歩いていると、誰かにぶつかった
腕を掴まれて投げるように部屋に入れられる
暗くて、冷たい。
殴られていた日々を思い出してしまう
何をするのか見ていると、タバコを取り出した
ここではタバコは禁止のはず…
吸わない…?
どういうことかと思っていると
ポケットからライターを取り出した
タバコに火をつけると、
それを
俺の腕におしつけた
ジュッと焼ける音がした
殴られてもこんなことはされたことがなかったから痛みで顔を歪める
ライターの火を顔の前に近づけてくる
火…
思い出してしまった
忘れてしまおうとしていたこと
今まで見て見ぬふりをしていたこと
お母さんは
火に焼かれて死んだ
忘れたかった
母親の悲鳴を
苦しむ顔を
助けられなかったから
何も出来なかったから
頭が痛い
視界がぼやける
嫌だ…怖いよ…
助けてよ…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。