KOJI,M
朝起きてから、違和感があった。
なんか、全体的に体が軽い。それこそ、ふっかさんやラウやないけど羽が生えたみたいに体が軽い。それがなんでかわからんけど、あんまり深く考えてなかった。
やけど、朝ご飯を食べに食堂に行った時やった。照兄が焦ったような顔をした。
「……康二。お前……めめ、どこやったの?」
「……え?」
照兄とかしょっぴーとかは魔に属するものやから人の魂の状態が見える。これまで俺の魂にはめめの魂が覆い被さって護られている状態やったらしい。……けど、めめの魂が俺のところにないと言われた。
それを聞いた瞬間、俺も顔から血の気が引いたのがわかった。
「……めめが、おらん?」
めめに呼びかけても反応がない。俺の体が軽くなったのも、守護霊であるめめが離れたから? んなアホな。昨日の夜までおった。外にも出てないし、何がどうなって、めめがおらんくなるん? 自分で出ていった?
「……正体がはっきりしたな。ラウ、舘さんに来てもらって」
「わかった」
ふっかさんには何か思い当たることがあったらしい。
「なぁ、ふっかさんどういうことなん?」
「……異郷の神だよ。密猟者なら何重にも結界が張られてるここに立ち入ることはできない。こんなことができるのは神しかいない」
「神……」
対人間ならともかく、対神様なんて馬鹿げてる。俺に何かができるとは思われへん。
「康二、今は嘆いている時間はない。めめを助けるためにできることをしよう」
「……うん」
とはいえ、俺になにができるんやろう……。
そう思って、ふと思い出した。そうや、俺には阿部ちゃんがくれた緊急事態の時に血判を押したら来てくれるっていうお守りがあったやんか!
そう思って、近くにあったナイフで指に傷をつけた。
「康二!?」
「待て、康二、今血を出すのは」
「え?」
緑の石に血判を押した瞬間、その石は一瞬まばゆく光ってオレンジ色になった。……でも、俺が驚いたんはそれやなかった。
俺の血が地面に垂れた時……地面が割れた。
地面が割れて、俺の足元が崩れた瞬間に現れたんは……真っ黒な目を更に光を通さない漆黒にした……。
「めめ……?」
俺をギチィとホールドして離さへんめめの変わり果てた姿に俺は絶句した。そのホールドは、俺の骨がギチギチ音を立てるほど強くて……流石のめめにもこんな力は出せへんと思った。やからこそ、わかった。これは……純粋なめめではないことに。
「めめっ! 痛い! やめてっ!」
「康二! 今のお前の言葉は聞こえてない! くっそっ、めめの強さが裏目に出た」
「え、しょっぴー!?」
え、今俺命の危機やけどつっこんでええかな?
しょっぴーなんであっさり登場してんの!? 舘が血眼になって探してたのに! なんで!?
と、現実逃避並みに混乱してると、蔦なるものがしょっぴーを殺めんばかりにズダダダッて地面をひび割れさせながらすごい殺傷能力でしょっぴーに向かう。
「ちょ、めめのどアホ! なんでしょっぴーを!」
「いいか、康二。こいつはめめじゃない。めめの中によくない神が取り憑いてんだ。それを剥がさねぇと俺もそう簡単に攻撃できねぇ!」
「え、え……」
「もーどういうこと! めめもしょっぴーもいるのに!」
ラウールの嘆きと共に扉がバンッと開いて舘さんが入ってきた。今の状況を見た舘さんは瞬時に起きてることを理解して、俺に助言をくれる。
「康二、今ここで純粋な人間なのはお前だけだ。めめを助ける最善の方法……それは、康二お前が贄になることだ」
「俺が……贄に!?」
そうや、いつしか阿部ちゃんが言ってた。
神は人間を贄としか見ていないと。チャンスなんて与えず、気に入ったものを自分のものにしたいがために贄として捧げてもらうのだと。
阿部ちゃんやって、最初から俺を贄にしたいと言ってた。それが神であると、人間の範疇を越えた、箱庭でお人形遊びをしているのだと。
「……俺が、贄に」
「まってよ、舘さん! そんなことしたらめめは!」
「目黒を助けたいんでしょ? 自分が犠牲になってでも」
「せや。俺は戻ってきてほしい。あの写真に写るめめのような、お人形じゃないめめに」
「……そうか。人間である康二じゃないと……康二の代わりがここにはいないんだ……」
場所が悪い、としょっぴーは吐き捨てた。
ここが他の、人間のいる場所ならまだしも、ここに純粋な人間は俺しかいない。
わかった。大切なものを壊されるくらいなら、俺はいくらでも命かけたる。それが自己満でも……皆は許してくれるかな?
「わかった。俺が生贄になろう! どや、名前もしらん神様。それで取引成立やろ!? 生きた魂がほしいんやろ!」
めめの姿がドロドロと解けていき、その本質である黒いモヤに変わった。俺には見えた、そのモヤの奥深くに、めめが眠っていることを。
「めめを返して」
「……オマエ、イラナイ……ト……」
「は?」
「……オマエ、コイツ、イラナイ、オモッタダロ」
無機質で、這うような声。
途切れ途切れに聞こえる人の言葉と雑音の間。……それでも言ってることはわかる。でも理解はできへん。
俺をギチィと掴む蔦は更に強く強くなっていく。
「そんなこと、思ったこと……」
その瞬間、瞬時にいろんなことが思い起こされた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!