大方予想は着いていた。此奴は皇帝派で、任務は私の心臓を奪ってくること。私の生命活動を一時的にでもいいから停止させること。こんな路地裏に呼んだのは目撃者を少なくするため。
目の前のそいつは黙って俯いた。パーカーの隙間から皇帝派であることを示すペリドットのネックレスが見えた。綺麗な、黄緑色。
それに少し見とれていた。どのくらい見とれていたかはわからない。目の前のそいつが不意に口を開く。
どん、後ろからの強い衝撃。
左胸付近に切り傷ができる。じわぁと血が浮かんでくる。不快、不快だ。こんな傷がついたのは久しぶりだ。
そいつは私に話しかけたのか、はたまた私の後ろにいるやつに話しかけたのか、どちらかはわからないがその場を去った。急いで後ろを振り返った。得体の知れないそいつの顔は霧のようにぼやけて見えなかった。
幻覚の一種だろう!いつそのような薬を盛られたかは分からなかった。あァ、ドアノブに薬でも塗っておいたのだろうか。
油断した。死にそうだ。自分の生命の危機が、こんなにも笑える。こんなにも楽しくて、終わらせてしまうのが勿体ない。
無言で攻撃を仕掛けてくる。話をする気はないようだ。胸元に先程のアイツと同じネックレスをしているのが見えた。やはり、皇帝派か。
なんでそいつが謝っているのか、理解できなかった。理解できずに動揺した。その隙を、そいつは見逃さなかった。次に見た景色は、心臓がそいつの手のひらの上で鼓動しているところ。
一瞬こちらを見た。しかし何も言わなかった。心臓を取られた今、私にできることはなにもない。力が弱まっていくのを感じた。そいつは私の心臓を持って走り出した。暗い路地裏に、からっぽの私が横たわる。あぁ、あの後ろ姿、あの後ろ姿には、たしかに見覚えがあった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!