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あなたが記憶を失う前、ベルトルトに注射をさされた日のことから事細かに話し終えると、ハンジたちは驚いた表情で呆然としていた。
後悔、失念、悲愴。
それらの感情をひっくるめたような顔であなたは頭を下げた。
ハンジが慌ててあなたに面を上げさせる。
今回の壁外調査で、多くの兵団員の大切な命を奪った元凶。
あなたは悔しげに歯を噛み締めた。
エルヴィンが諭すと、あなたは少し頷いてわかっています、と返した。
あなたがそこまで言ったところで、何かにはっと気付いた表情でハンジ達が目を見開く。
ハンジの言葉にあなたが苦い顔をした。
ざわり、と部屋の中に動揺が走る。
憎らしげにあなたが呟く。
エルヴィンがあなたの肩に手を置く。
ナナバが発言すると、リヴァイが口を開いた。
奴、とは言わずもがなエレンのことだ。
あなたは大きく頷いた。
言葉を止めたあなたを、不思議そうに皆が見る。
リヴァイが眉を寄せた。
ハンジが眉を下げると、あなたは困ったように微笑んだ。
作戦を提案した部下としてエルヴィンに指示を仰げば、エルヴィンは少しの沈黙の後口を開いた。
不安気にナナバが申し出るも、あなたはやんわりと断る。
エルヴィンにあなたは力強く頷く。
そして、そのまま皆を見回して言った。
方針が決まったところで、エルヴィンは再度周りを静かにさせた。
不思議そうにするあなたに、エルヴィンは扉の外に声をかけた。
廊下から入ってきたのは車椅子にかけたエルド達の姿だった。
あなたの目に涙が浮かぶ。
あなたの反応を見て、エルド達は動揺してエルヴィンを見る。
記憶が戻ったことを、悟ったのだ。
ペトラは涙を流してあなたの手に触れた。
顔を俯かせて、あなたもまた涙を流した。
エルド達がひとしきり再会を喜んだところで、エルヴィンはあなたに尋ねた。
エルド達はおろか、その場にいたリヴァイ、ハンジ達全てが驚いてエルヴィンを見る。
あなたはただ、困ったようにエルヴィンを見つめ返した。
さらに驚くことに、あなたから返ってきた言葉は肯定だった。
周囲にざわりと動揺が走る。
慌てるハンジの言葉にあなたは困って眉を寄せたまま仕方なし、と言った感じで答える。
エルヴィンが状況を推測して、言葉を続ける。
エルヴィンはあなたを見つめた。
あなたはざり、と心なし後退る。
唖然とする兵士達の中で、あなたはただ自分を抱きしめるように腕を回すと涙を流して首を振った。
エルヴィンは静かに言葉を放つ。
そこでハンジやリヴァイは、あなたの言葉の意味を初めて知ることとなった。
"普通に参加出来たはず"
"何も出来なかった俺"
記憶を無くす以前のあなたは極めて完璧主義の人間であったことを、嫌というほど思い知らされる。
ペトラがあなたに近寄る。
オルオ達は涙を浮かべて大きく首を振った。
エルヴィンがあなたの肩に触れる。
あなたは昨日そうしたように、エルヴィンの胸に顔を押しつけて泣いた。
ハンジが途方にくれたように漏らす。
リヴァイがあなたに歩み寄り、その頭に触れる。
ぐしゃぐしゃに髪を撫で回されて、少し不愉快そうにしながらも、労いの言葉にあなたは少しほっとしたように顔を紅潮させた。
エルヴィンの言葉に、兵士達は尊敬の念を込めてあなたに頭を下げた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。