どよめく群衆の中を歩く。
あなたは部屋に戻ってなどいなかった。
ある目的で街に巡回を兼ねて訪れていた。
定期的に訪ねていた、マルコを預けているパン屋は、街の中でもまだ裕福な地域に店を構えているためここまで深くまで足を運んだことはない。
現状を、自分の目で確かめてみたかったのもある。
聞こえてくる親子の会話に改めて自分がどれだけ身勝手に生きてきたか思い知らされる。
散々自分のことや巨人にかかり切りになって、自分の所属する調査兵団を支えてくれる団体ーーー"民"に一度も目を向けられなかった。
思わず携帯の備食を渡してしまいそうになるのをぐっと堪える。
この子に渡せば一時は空腹を凌げるかもしれない。けれど、他の人たちにも同じだけ与えてあげることなんてできない。
悔しさに顔を歪ませていると、聞き覚えのある声がした。
名前を呼ばれて振り返ればモブリットが何やら大きな紙袋を抱えてこちらに向かってきた。
ハンジの買い出し?なんてフランクに尋ねようとして、はっと我に返る。
あなたの肩に手を添えて兵団に連れて帰ろうとするモブリットにやんわりと断りを入れる。
どこかに歩き始めたあなたに、モブリットは慌ててその後を追った。
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驚くモブリットをよそにあなたはある一件の家のドアをノックした。
しばらくしてドアが開き小太りの男が顔を覗かせた。
あなたが手のひらに握っていたものをリーブスにちらりと見せる。
リーブスは目を見張るとすぐにあなたたちを奥に招き入れた。
エルヴィンが時計を見て呟く。
針は13時を指していた。
リヴァイはそう答えると窓から門を見下ろす。
がたり、と音を立ててハンジが椅子から立ち上がった。
そのとき、ちょうど扉が開きあなたが入ってきた。
くだけた口調で微笑むあなたにハンジは感極まって抱きついた。
あなたの周りに他の兵団員が集まってくる。
次々に掛けられる暖かい言葉にあなたは涙ぐみながら一つ一つ返事をしていく。
エルヴィンに尋ねられてあなたは笑いながら言葉を濁した。
エルヴィンが椅子に腰を据えるとあなたが深く頷いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!