「あなたの下の名前(漢字)ちゃん、ただいま〜」
「あ、晴さん!」
小走りで玄関まで出迎えに来てくれたあなたの下の名前(漢字)ちゃんは、僕に腕を回してぎゅっと抱きつく。
「おかえりなさい、晴さん」
「ただいま。……あなたの下の名前(漢字)ちゃんからこういうことしてくるなんて珍しいね?」
すると彼女はちょっと視線を逸らしてこう言う。
「……晴さんがいなくて少しだけ寂しかったんです」
「はぁ〜……可愛いなぁ〜……」
そんな風に愛しの許嫁とイチャイチャを繰り広げてから、一旦自室に下がった僕は部屋着に着替える。
そうして戻ってくると、居間の小卓にはすでにジャスミンティーが用意されていた。
「あなたの下の名前(漢字)ちゃんありがと」
「これくらい大したことじゃあないですよ。良ければ肩揉みもしましょうか?」
「あ、じゃあお願い」
あなたの下の名前(漢字)ちゃんは軽く頷いてから僕の背後に回ると、肩甲骨のあたりをグリグリとほぐし始めた。
しっかり強い力で押してくれるので気持ちいい。
「晴さん、ずいぶん肩が凝ってますね」
「んー……最近忙しいんだよねえ……」
そう呟いた僕は「あ、そういえば」と思い出す。
「あなたの下の名前(漢字)ちゃん、今日は何して一日過ごしてたの?」
「起きたのが遅かったので、近くの公園へお散歩に行っていました。偶然、叶さんと葛葉さんに会ったんです」
「そっかぁ。……え?叶さんと葛葉さん?本物?」
僕が目をぱちくりさせると、彼女は「ええ」と頷く。
「正真正銘、ChroNoiRのお二人でしたよ。クレープご馳走になっちゃいました」
「へえぇぇ〜、そっか〜」
またなんとも言えないモヤモヤが湧いてくる僕に、あなたの下の名前(漢字)ちゃんは「またヤキモチですか?」と笑った。
「心配しすぎですよ。私は晴さんしか見てないのに」
「でも、あなたの下の名前(漢字)ちゃん可愛いから変なヤツに目をつけられないか不安なんだよ……!」
あなたの下の名前(漢字)ちゃんは僕のモノだって主張できるアイテムが何かないかなあと考え込む。
「……あ」
そこでふと思いついたのは、いつも彼女が髪を結い上げている簪。
桜魔皇国では男性が婚約者に自分の家の家紋を刻んだ装飾品を贈る文化がある。それを応用して甲斐田家の家紋を入れた簪を作るのはどうだろうか。
そう考えついた瞬間、僕の頭の中でぐるぐると計画が巡り出す。
……簪部分は魔除けの梓の枝を使って、飾り玉の部分は僕の羽織紐と同じ桜魔翡翠。タッセルもつけたらおそろいっぽいかも……
「ただの装飾品ってだけじゃなくて、いざという時のお守りになる反撃術式も組み込んでみようかな……」
「どうしましたか?晴さん」
「……え?あぁ、いや、なんでもないよ」
思わず口に出てしまった言葉を誤魔化しながらも、僕はあなたの下の名前(漢字)ちゃんに簪をプレゼントしようと決めたのだった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!