第2話

それでも名前を呼んでしまった
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2026/01/08 01:02 更新
距離を取ろうと決めてから、 彼と話すことは、ほとんどなくなった。


廊下ですれ違えば、会釈だけ。 声をかけられても、必要な返事だけ。


それでいいはずだった。


放課後、昇降口で靴を履き替えていると、 背後から控えめな声がした。
光くん
光くん
……先輩
呼ばれただけで、心臓が跳ねる。


振り返ると、少し離れたところに光くんが立っていた。


なんでそんなに微妙な距離にいるんだろう


そんなの逃げられないじゃん
光くん
光くん
これ、落としましたよ
差し出されたのは、私のキーホルダー。  


歩いている時に落ちてしまったらしい。
(なまえ)
あなた
……ありがとう
受け取ると、彼はほっとしたように笑った。
光くん
光くん
よかったっす。気づかないまま帰ったら困るかなって
その言い方が、変わらなくて。


優しすぎて、少し苦しい。
光くん
光くん
……最近忙しいんスか?
不意に聞かれて、言葉に詰まる。
(なまえ)
あなた
別に
そっけなく返すと、 彼は一瞬だけ、困った顔をした。
光くん
光くん
そっすか
それで会話は終わるはずだった。

でも、沈黙が落ちて、

妙に長く感じる。

気まずさに耐えきれなくなって、 私は口を開いた。
(なまえ)
あなた
さっき……
(なまえ)
あなた
他の子助けてたでしょ
自分の声が震えていて驚いた
言ってから、後悔する。 


聞くつもりなんてなかった。


彼は少し驚いたように目を瞬かせて、 すぐにいつもの表情に戻った。
光くん
光くん
ああ、階段のとこっすか。 たまたま通りかかっただけっすよ
さっき彼は階段を踏み外した女の子を軽々とお姫様抱っこして助けていたのを私は見てしまった
光くん
光くん
…先輩も見たんすか?
(なまえ)
あなた
…見てない
嘘だった。

彼はそれ以上、踏み込んでこなかった。
光くん
光くん
…そっすか
また、それだけ。

光くんは一歩、下がった。
光くん
光くん
じゃあ……
立ち去ろうとしていたその瞬間
(なまえ)
あなた
……光くん
名前が、口から零れた。

呼ぶつもりなんて、なかった。 呼ばないと決めていたはずだったのに。

彼が目を見開く。
光くん
光くん
はい?
(なまえ)
あなた
なんでもない
慌てて視線を逸らす
(なまえ)
あなた
キーホルダー、ありがとう
取り繕うように言うと、

彼は少しだけ安心した顔で頷いた。
光くん
光くん
はい!
それ以上、言葉を続ける意味はないから


私はその場を立ち去った
校門を出たところで、友達に声をかけられた。
寧々ちゃん
寧々ちゃん
ねぇ、今日どうしたの?
(なまえ)
あなた
なにが?
寧々ちゃん
寧々ちゃん
なんか元気ない
誤魔化そうとして、視線を逸らす。
寧々ちゃん
寧々ちゃん
また、あの後輩くん?
(なまえ)
あなた
違う
即答しすぎて自分でも驚く
(なまえ)
あなた
…嫌いなんだってば
寧々は少し黙ってから首を傾げた
寧々ちゃん
寧々ちゃん
それさ
寧々ちゃん
寧々ちゃん
嫉妬なんじゃない?
言葉が、胸の奥に落ちる。
(なまえ)
あなた
違う
否定はすぐ出た。

でも、声は弱かった。
寧々ちゃん
寧々ちゃん
じゃあさ
寧々ちゃん
寧々ちゃん
なんで名前、呼んだの?
寧々ちゃん
寧々ちゃん
いっつも君とか名前呼んでないじゃん
なんだか言葉がつっかえて答えられなかった
この時の感情にピッタリ会うような言葉に私は出会えて居ないんだろうな
(なまえ)
あなた
……わかんないよ
小さく呟いて、視線を落とす。


呼ばないと決めていた。 距離を取ると決めていた。


それでも、


私は名前を呼んでしまった。


今はまだ。


この気持ちが何なのか、 分からないままでいたかった。

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