あなたが死んでから約1ヶ月
あれからまだ戦場は続いている
帝国と世界の溝は深くなって
お互いに血を求め続ける
ターニャはそれを捧げ続ける
だけど、あの日から何かが変わった。
誰も気づかない。
気づかせるわけにはいかない。
ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐
帝国の白銀
いつも通り冷酷で無慈悲で
合理的な悪魔
けれど
もう使われないはずの
執務室の副官の机の上に、
誰もいないはずの
副官のマグカップがいつも置かれている。
ターニャは清く正しいカフェイン党である。
ターニャはコーヒーが好きである。
前世から変わらずっと。
それでも今世では
あなたに入れてもらったコーヒーから香る
2人だけの空間での
昼過ぎの香りが一番好きだった。
未だ置いてある副官のデスクに
未だ置いてあるマグカップ
ターニャはいつも二人で飲んだ
あの味があの香りが未だに忘れられないのだ
珍しく深夜
激務だった夜
執務室で一人。
自分のマグカップに1人分のコーヒーを淹れる。
本来なら隣で
あの幼い副官が砂糖を勝手に入れてくるはずだった。
そうだ
彼女はもう居ない。
それなら勝手に入れられることも
わざわざ入れてやる必要も無い。
そう言いながらも
あの時の味を感じようと
暫くしまっていた砂糖の瓶を取り出して
あの時の副官のように入れる。
カップ1杯にスプーン4杯
あの副官は甘いものが好きだった。
あの時と同じ分量のコーヒー。
あの時と同じはずの味を求めて口に含む。
けれど、自分で入れた砂糖は甘すぎた。
一口飲んで、口に広がるその味が酷く空虚だ。
ターニャは舌打ちして自身のマグを机に叩きつける。
美味しかったはずの味に顔を顰めて
ため息を着く。
そんな時
窓から風が入ってきてキャンドルの火を揺らした
風を追いかけるようにして
誰もいないはずの副官のデスクをつい無意識に見る。
もちろん
そこにあなたの愛称はいない。
だけど鉄十字章の冷たい重みが、
彼女の存在を突きつける。
そこに刻まれた血の匂いが
彼女の魔力の残穢が
鼻の奥にこびりついたまま離れない
残ったあの子のマグに近づく。
叩き割れるのに
叩き割れない
割りたくない
ただ今はあなたの愛称が置いていった物を
眺めることしか出来ない。
口元を歪めたのか
口角を上げたのか
キャンドルのほのかな光では分からない。
何十年先も、何百人の部下が増えようと
誰が隣に立とうと
お前だけはずっとここにいる。
そんな大嫌いなはずだった希望的観測を行ってしまった。
その思いに答えたのか答えなかったのか
再び窓から風が入り込み
今度はキャンドルの火を容易く消した。
喉にこびり付く甘みと
鼻にこびりつく血の匂いを残して。
☆☆㊗️2ヶ月ぶりの小説☆☆
普通に【悲報】すぎる











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。