第10話

やっと
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2026/04/25 10:28 更新





あなたは、砂を離れ、陸に上がった。


濡れた足が土を踏むたび、感触が変わる。





辺りを見回すと、

月明かりに照らされた道があった。


木々の影。遠くに揺れる灯り。


どこにいるのかも分からない。




それでも、足を進める。

たった1人の姿を、探して。




あなた
……どこ…


時間の感覚が、曖昧になっていく。


どれくらい歩いたのか分からない。




同じような景色。同じような道。


どこに行っても見つからない。



あなた
……なんで…



息が乱れ、声がかすれる。

焦りが、胸を締めつける。



やっと、同じ場所に立てたのに。

やっと、触れられる距離に来たのに。



あなた
……会いたい、


その想いだけが、強くなる。




しかしその時、足がもつれ、地面に倒れる。



あなた
……っ、!


そのまま、地面にしゃがみこんだ。



息が荒く、体が思うように動かない。



慣れない体。

慣れない感覚。


それでも、

あなた
……やっと、来たのに


ぽつりと、零れる。


こんなところで、終わりたくないと。


あなた
…会いたいよ…っ







その時。










時透無一郎
……大丈夫?


不意に、上から声が落ちた。


あなた
……!


顔を上げると、月明かりの中に姿が見えた。


ずっと探していた、変わらないその姿。




あなた
……ぁ…、


言葉が、出てこない。

息をするのも忘れて、ただ見つめる。


時透無一郎
怪我してるの?


無一郎が、静かに近づく。



彼は、警戒はしている。

けれど、それ以上に“様子を確かめる目”をしている。



あなた
…い、いえ……


声が震える。

あなたに会いたかった、と言いたいのに。



時透無一郎
…大丈夫なら良かった


少しだけ距離を保ったまま、立ち止まる。


あなた
……あ、あの
 
やっと、声を絞り出す。


あなた
わたし…


言葉が続かない。



伝えたいことは、ずっと前から決まっていたのに。


目の前にいるだけで、全部消えてしまう。


時透無一郎
……落ち着いて


静かな声で待ってくれる。



あなた
……やっと、


震える声で続ける。



あなた
やっと、会えた…


その言葉だけは、絶対に迷わなかった。



時透無一郎
……?


しかし、無一郎はわずかに首を傾げる。



当然だ。

初めて会う相手のはずなのだから。

あなた
……


それでも、話すのを止められなかった。



あなた
…私、ずっと貴方を探していたの……


息を整えながら言う。


嘘ではないが、全部も言えない。


時透無一郎
……そうなんだ


無一郎は、それ以上深くは聞かない。

ただ、静かに受け止めた。


時透無一郎
…立てる?


手を差し出すことはしない。

けれど、視線で促す。


あなた
……はい、


あなたは、ゆっくりと立ち上がる。


すると、少しよろけてしまった。



時透無一郎
気をつけて



すぐそばで、

支えるでもなく、見守る距離から見ている。



その距離が、もどかしい。


あなた
……ありがとう、ございます


自然に、言葉が出た。

すると、胸がいっぱいになる。



やっと、同じ場所に立てた。




それだけで、十分なはずなのに。


あなた
……っ…


もっと近づきたいと、願ってしまう。


無一郎は、しばらくあなたを見ていた。


時透無一郎
家は近い?
あなた
……分からない
時透無一郎
…じゃあ


少し考えるように視線を落とす。


時透無一郎
人のいる所まで案内するよ


それ以上でも、それ以下でもない。

それが、この人の優しさなんだ。


あなた
……はい


頷き、並んで歩き出す。

距離はまだ、少し遠い。



それでも、

同じ道を歩いている。



その事実だけで、胸が満たされていく。



あなた
……


横顔を、そっと見る。



手を伸ばせば、触れられる距離。


でも、まだ触れられない。





やっと会えたのに。





それだけで、

苦しくて、嬉しかった。




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