第11話

断頭台
9
2025/10/24 12:00 更新
重罪人───よ。最後に何か言うことはあるか?
 処刑人の重い声。
 どこか冷たく重く感じるその声に責められるように感じた。
彼女ちゃん
いえ、特には。強いていうなら冤罪であると
 正直もう疲れた。
 目の前の民衆からは今も石を投げられる。
 ついでに甲高い声の頭のなかがビリビリする、金槌のような嫌な声も聞こえる。
あの魔女を殺せー!
あの歌姫の偽物を殺せー!
 人を殺す、それを見るのが娯楽。

 なんて怖い世の中だろう。
 冤罪で捕らえられた私を碌な調査もせず公開処刑と決めたあのゴミ王子が王になる国だから仕方がないのか?
 あーあ、最後に会いたかったなぁ。でも来ないって宣言されちゃったし。
では、刑を執行する
 鈍く鉄色に輝く刃。
 私の首は今からこの刃に断たれる。
彼氏くん
ちょっと待ったー
 時が止まった。否、全員の体が硬直したのだ。
 棒読みで登場した人間は、黒色の服に身を包み、顔も手も足も全てが黒かった。そして、その者は落ちてきた刃をその手で掴んだ。
 驚くな、と言う方が無理がある登場。
 …………なんで来てるの?来ないって、言ったじゃん。
 耳元でそっと、「お疲れ様」という声。
そこの者。それは刑を受けるべき罪人だ。助ける必要などない。至急立ち去れ
 処刑人の厳かで冷たい淡々とした声音。
彼氏くん
いやーこいつは俺の大事な人でしてー
 助けに来た人物のおちゃらけた緩い声音。
 どうしようもなく安心できるその声に、知らず知らずのうちに緊張でこわばっていた体から緊張が立ち去っていく気配がする。
それは罪人だ。至急立ち去れ
 冷たく重い処刑人の声が響く。
 民衆は娯楽の邪魔をされてご立腹の様子。
彼氏くん
えー?冤罪なのにぃー?
 確実にそのマスクの下の顔はニヤニヤしてるだろう。
 目を弧に歪めている姿が想像できる。
 昔から変わらない、敵を既に詰んだ状態にした上で煽るその癖が今発動しているらしい。
冤罪の証拠は?
彼氏くん
ほれ、彼女の身分証明と王印付きの書類
 何かを渡してるらしい。
 緊張が抜けて体がどんどん自分で動かせなくなってきた。
 周囲からは微かに動揺するような声が聞こえた。
成る程……裁判所の判断は?
彼氏くん
申請待ち中ー。処刑は一時取り止めとのこと
了解した…………罪人を牢屋に!
 重い甲冑を着こんだ騎士達がこちらに来る音がする。
 もしかしなくとも私は詰んでるのかもしれない。
彼氏くん
えー?せっかく助けに来たのに渡すわけないよねぇ?
 間延びした口調。
 掌に魔力を集めているのが一瞬見えた。
彼女の処分はこの国の問題だ
 あたたかい…………魔力暖かい……。
彼氏くん
ん、これでよし。僕の大事な人を冤罪で処刑する国に預けられるわけないじゃん、大使館で預かってるね
そう宣言すると周囲からは「黒ずくめの怪しいやつが?」「なんで大使館所属なのにあの不審者装束……?」などの混乱する声が。
 それと私はお姫様抱っこをされた…………え?お姫様抱っこ?
 体が動かない!回復して貰ったから体力はあり余ってるのに!
 やめろ!恥ずい!顔が赤くなるから!
 耳まで赤くなっちゃうから!
 み、見ないでください……。あの、降ろして……いややっぱ降ろさないで……。
彼氏くん
行こっか
彼女ちゃん
やめてぇ……
彼氏くん
だぁーめ
彼女ちゃん
そんなー
 屋根を伝いサクッと移動。
 途中で愛の告白を受けた気がするが意識がほぼ飛んでたから分からん。

 今、大使館前。

 私多分このあと叱られると思う。
彼氏くん
さて、一人独断で行動したその理由を聞こうか?
 黒色の服を脱ぎ去り一転爽やかな服装になった彼からの尋問が開始したらしい。
 彼の浮かべている表情は一分の隙もない作り笑顔だった。グツグツと煮え立った感情を隠すためにやっているように見える。
 その証拠に、瞳に見える感情は不安、恐怖、怒り、悲しみ。大方私を失うと思って暴走しそうになったのだろう。
 でも、まぁ。
彼女ちゃん
…………しょうがないよね、君が人質にとられてるって聞いちゃったんだもの
 作り笑顔が緩み、瞳が優しくなった。

 いつも、優しいなぁ。
 ありがと。

 撫でてくるこの手はいらないけど。
 私は手を叩き落とした。

プリ小説オーディオドラマ