前の話
一覧へ
次の話

第22話

20 懐疑
630
2026/01/12 11:00 更新

───カチッ。



ボタンが押された瞬間、
施設内のスピーカーが一斉に起動した。


選手たちはその音を聞いて動きを止める。

御影玲王
御影玲王
あれ?これ何の音?
黒名蘭世
黒名蘭世
放送放送
士道龍聖
士道龍聖
故障でモニター使えねーんじゃね?

トレーニングルーム、各部屋、廊下。
それぞれの場所で、同じ疑問が浮かんでいた。



短いノイズのあと、
静かで落ち着いた声が流れる。
「放送」
『……テスト。音声、届いていますか』
事務的で、感情を抑えた口調に、
騒がしかった空気が、ゆっくりと静まっていく。
「放送」
『練習中に、突然の放送、失礼します』
「放送」
『本日より数日間、施設内の安全確認および補助対応を担当します』




「放送」
『……糸師です』





その瞬間──




トレーニングルームの隅で、
一人だけ、完全に動きを止めた選手がいた。

糸師凛だ。
糸師凛
糸師凛
……は?
糸師凛
糸師凛
(……糸師?)
耳鳴りがする。
糸師凛
糸師凛
(今、糸師って言った…?それにこの声って…)
聞き間違いだと切り捨てるには、
あまりにも、はっきりした声だった。

放送は、何事もなかったかのように続く。
「放送」
『選手の皆さんの集中を乱さないため、今回は音声のみで対応します。』
「放送」
『モニターには映しません。ご理解ください』


少し間を置いてから、
今度は別の声が割り込んだ。

「放送」
『虎杖悠仁です!』

明るく、よく通る声。
「放送」
『好みのタイプはジェニファー・ローレンス。』
「放送」
『分かんないこととか、困ったことあったら、気軽に声かけてください!』
「放送」
『よろしくおなしゃすっ!』




.
.
.

烏旅人
烏旅人
なんや2人とも顔出さんのか
乙夜影汰
乙夜影汰
うぇ〜い。女の子来た〜。後でナンパしよーと。
雪宮剣優
雪宮剣優
こら、やめなさい



.
.
.



潔世一
潔世一
糸師って……
潔世一
潔世一
(もしかして凛の……)

馬狼 照英
馬狼 照英
おい、潔。ぼーっとしてねーで早く練習行くぞ。
考え込んでる潔に馬狼が苛立たしげに言う。
馬狼 照英
馬狼 照英
早くクサオを起こせ
凪誠士郎
凪誠士郎
んー、クサオじゃない。凪だ。俺も名前で呼べ。




.
.
.



不満の声。
興味本位の反応。
最初から気にしていない者。


放送は、
それぞれの場所で、それぞれの受け取られ方をしていた。



そんな中で。



凛だけが、
その場から切り離されたように立ち尽くしていた。



糸師凛
糸師凛
……
糸師凛
糸師凛
(まさか……)

一瞬、脳裏をよぎった考えを、
すぐに否定する。
糸師凛
糸師凛
(…姉ちゃんがここにいるわけねーか)
そう思うのに。

胸の奥に残った違和感だけが、
どうしても、消えなかった。

プリ小説オーディオドラマ