第20話

18 忸怩
620
2026/01/08 11:03 更新
あなた
自己紹介、ですか……

モニター室の空気が、わずかに静まる。
壁一面の画面には、各棟の廊下やトレーニングルームが映し出されていた。
あなた
……確かに、その方がいいですね
あなた
表向きは“マネージャー”ですし、先に顔と名前だけでも知ってもらった方が、余計な混乱は防げますしね
絵心
絵心
助かる
絵心さんはそう言って、顎で放送設備を示した。
帝襟アンリ
帝襟アンリ
では、こちらで施設全体への放送を
帝襟が操作卓に向かい、
慣れた手つきでカメラの準備を始める。

……その瞬間だった。
あなた
──あ、待ってください



あなた
……本来なら、モニターに顔を出してやるところですが
あなた
今回は、音声のみの放送でお願いします
帝襟アンリ
帝襟アンリ
え?
虎杖悠仁
虎杖悠仁
…え?

少し驚いたように私を見る虎杖くんと帝襟さん。
そんな2人の隣で、絵心さんが片眉を上げた。
絵心
絵心
理由は?
あなた
……
私は一瞬だけ言葉を選ぶ。

1ヶ月前。
空港で冴くんと偶然再会してしまった。

そのとき、カップルだと勘違いされ、ネットニュースに載るほどまで顔が世間に知られてしまった。

それ以来、
“顔を出す”ことそのものが、余計な波紋を呼ぶ。
あなた
……以前、世間に私の顔が出て、少し騒ぎになったことがあります。
私の言葉に、
さっきから困惑していたように見えた虎杖くんが、
はっとしたように目を見開く。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
あ……

何かに、ようやく合点がいった顔。

私はその反応を気に留めることなく、続ける
あなた
私が映ると選手の集中に影響が出る可能性があります。
事実だけを並べる。
感情も、余計な説明も添えずに
あなた
だから、音声のみの放送でお願いします。
帝襟アンリ
帝襟アンリ
…え?
帝襟さんは、私の言葉に少し驚いたように振り返った。

それと同時に、後ろで椅子にもたれていた絵心さんが、ふっと鼻で笑った。
絵心
絵心
あー……







絵心
絵心
あの空港での件のことか
一瞬で察したような口ぶりだった。
あなた
……

私は否定も肯定もしない。
あなた
選手たちに余計な混乱を招かないほうが良いと思いますし。
絵心
絵心
そりゃそうだろ
絵心さんは興味なさそうに肩をすくめる。



絵心
絵心
 世界的スター糸師冴の名前が絡めば、
練習よりゴシップに目が行くバカも出る


絵心
絵心
音声だけで十分だ。
むしろ、そっちの方が合理的だな
あなた
…はい。施設内では、選手に気づかれないように細心の注意を払うつもりです




帝襟アンリ
帝襟アンリ
……
2人の会話を聞いて、帝襟は小さく息を整えた。
帝襟アンリ
帝襟アンリ
(えーーーー!やっぱり、そういうことなの!?)
表情は変えない。
けれど頭の中では、同じ名字糸師と、顔出しを避ける理由と、数カ月前に世間を騒がせた話題が、忙しなく結びついていく。
帝襟アンリ
帝襟アンリ
(似てるなって思ってたけど、本人だったなんて……。糸師冴と、どういう関係なんだろ……兄妹?それとも……)
一瞬だけ浮かびかけた好奇心を、
首を振ってきっぱりと押し戻す。
帝襟アンリ
帝襟アンリ
(ダメダメ。今は仕事中。詮索しちゃダメだ。まずは選手たちを優先しなきゃ)


帝襟は顔をあげるとあなたの方に向き直る。
帝襟アンリ
帝襟アンリ
…分かりました
帝襟アンリ
帝襟アンリ
音声回線のみ、繋ぎますね。

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