第17話

15 違和
783
2025/12/29 11:34 更新

車のタイヤが砂利をかき分ける音とともに、
コンクリートの大きな建物の前で停止した。
伊地知さん
伊地知さん
──着きました
伊地知さんの声に、意識が現実へ引き戻される。
隣を見ると、虎杖くんはまだ眠っているようで、微かにあくびを漏らしただけだった。
あなた
……ほら、起きて。虎杖くん
虎杖悠仁
虎杖悠仁
……ん…
軽く肩を揺さぶると、ようやく目を開ける。 寝ぼけたまま、私の方を見て首を傾げている。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
あれ…もう着いたの?
間の抜けた声でそう言って、虎杖くんは身体を起こす。
そして、窓の外を見て、ようやく理解したらしい。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
俺、そんなに寝てた?
あなた
うん。結構ぐっすりしてたよ。
私の返事に、虎杖くんは「ごめん」と軽く笑ってみせた。

その無防備さに思わず視線を逸らす。
あなた
(いい子すぎて…警戒してたのが申し訳なくなるな…)
虎杖悠仁
虎杖悠仁
ん?先輩どうかした?
あなた
ううん。何でもない。行こっか

そう言って車のドアを開けた瞬間
あなた
……!


───ぞわり、とした。

あなた
(……この呪力の感じ…妙だな…)
山々に囲まれたその施設から、強い呪力は感じない。
むしろ、拍子抜けするくらい静かだ。




……なのに。




何かが、いる。
気配もある。
でも掴もうとすると、するりと逃げるような感覚だ。

虎杖悠仁
虎杖悠仁
……でっか
虎杖くんは気が付いてないのか、思ったままを素直に口にする。

伊地知さんはタブレットを操作しながら、淡々と説明を始めた。
伊地知さん
伊地知さん
現在、施設内には125名の選手が滞在しています。
伊地知さん
伊地知さん
職員については"呪術師"という立場ですが、選手たちには"マネージャー"という名目で接触してください。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
え? なんで?

思ったことがそのまま口に出た、という顔で虎杖くんが首を傾げる。その様子に、場の空気がほんの少しだけ和んだ。
あなた
虎杖くん。そもそも、呪霊がどうやって生まれるか、覚えてる?
虎杖悠仁
虎杖悠仁
えーっと……たしか、人の負の感情から?
あなた
正解
私は頷きながら続ける。
あなた
人間の恐怖とか、不安とか、憎しみとか。そういう負の感情が溜まって、形になったものが呪霊だったよね
虎杖悠仁
虎杖悠仁
……あ、
 
虎杖くんが、小さく声を漏らした。ようやく点と点が線で繋がった、という顔だ。
あなた
だからね、非術師の心の平穏が呪霊の発生を抑制する一番の予防策なの

虎杖くんは私の説明を聞くと腕を組み、少し考え込む。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
うーん…
虎杖悠仁
虎杖悠仁
それは分かったけど…俺、嘘つくの下手なんだけど大丈夫かな?
あなた
そこは……まあ、頑張ろう
虎杖悠仁
虎杖悠仁
よし、まぁそうだよな!
虎杖くんは自分に言い聞かせるように呟くと、軽く笑った。
あなた
 (フォローになっているかは怪しいけど……まあ、虎杖くんなら大丈夫だろう)
あなた
(それにしても…)

説明がひと段落したところで、
さっきから気になっていた視線の存在を思い出す。
あなた
(……さっきから、見てくるのに声はかけてこないんだよな…)
私はそっと、入口の方へ視線を向けた。

……

そこにはスーツ姿の赤い髪の女性が、こちらの様子を伺うようにして立っている。
あなた
(……関係者ぽいけど…話しかける前に伊地知さんに一応、確認取った方が良さそうだな…)
そう結論づけた、ちょうどそのとき。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
……あれ、誰かいる?
虎杖くんも視線に気がついたのか口を開く。
あなた
伊地知さん、あの人…関係者ですよね?
 私の問いかけに、伊地知さんは少し戸惑ったように視線を向けた。
伊地知さん
伊地知さん
はい…おそらく。…ただ、窓からの報告では依頼人は男性だと聞いていたのですが……
伊地知さん
伊地知さん
えーと…今、確認を取りますね
伊地知さんがスマホを出そうとした、そのとき──
虎杖悠仁
虎杖悠仁
え、そんなの本人に直接聞けばよくない?
虎杖くんがキョトンとした顔で首を傾げる。
あなた
いや、虎杖くん待──
虎杖悠仁
虎杖悠仁
すいませんー!
あなた
虎杖くん!?

制止は、きれいに間に合わなかった。
もう少しで届いたはずだったのに。
伊地知さん
伊地知さん
え、ちょっと…虎杖くん!
私と伊地知さんが止める間もなく、虎杖はもう入口に向かって走り出していた。

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