車のタイヤが砂利をかき分ける音とともに、
コンクリートの大きな建物の前で停止した。
伊地知さんの声に、意識が現実へ引き戻される。
隣を見ると、虎杖くんはまだ眠っているようで、微かにあくびを漏らしただけだった。
軽く肩を揺さぶると、ようやく目を開ける。 寝ぼけたまま、私の方を見て首を傾げている。
間の抜けた声でそう言って、虎杖くんは身体を起こす。
そして、窓の外を見て、ようやく理解したらしい。
私の返事に、虎杖くんは「ごめん」と軽く笑ってみせた。
その無防備さに思わず視線を逸らす。
そう言って車のドアを開けた瞬間
───ぞわり、とした。
山々に囲まれたその施設から、強い呪力は感じない。
むしろ、拍子抜けするくらい静かだ。
……なのに。
何かが、いる。
気配もある。
でも掴もうとすると、するりと逃げるような感覚だ。
虎杖くんは気が付いてないのか、思ったままを素直に口にする。
伊地知さんはタブレットを操作しながら、淡々と説明を始めた。
思ったことがそのまま口に出た、という顔で虎杖くんが首を傾げる。その様子に、場の空気がほんの少しだけ和んだ。
私は頷きながら続ける。
虎杖くんが、小さく声を漏らした。ようやく点と点が線で繋がった、という顔だ。
虎杖くんは私の説明を聞くと腕を組み、少し考え込む。
虎杖くんは自分に言い聞かせるように呟くと、軽く笑った。
説明がひと段落したところで、
さっきから気になっていた視線の存在を思い出す。
私はそっと、入口の方へ視線を向けた。
そこにはスーツ姿の赤い髪の女性が、こちらの様子を伺うようにして立っている。
そう結論づけた、ちょうどそのとき。
虎杖くんも視線に気がついたのか口を開く。
私の問いかけに、伊地知さんは少し戸惑ったように視線を向けた。
伊地知さんがスマホを出そうとした、そのとき──
虎杖くんがキョトンとした顔で首を傾げる。
制止は、きれいに間に合わなかった。
もう少しで届いたはずだったのに。
私と伊地知さんが止める間もなく、虎杖はもう入口に向かって走り出していた。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!