第16話

14 潜念
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2025/12/28 11:00 更新
車内には、虎杖くんの規則正しい寝息と、一定のエンジン音だけが流れていた。
朝6時。夏の光が窓から差し込み、すでに外は明るい。
伊地知さん
伊地知さん
……糸師さんも、少し休まれては?

前を見ると、バックミラー越しに、伊地知さんが控えめに声をかけてくる。
伊地知さん
伊地知さん
目的地までは、まだ時間がありますし


一瞬、資料から視線を上げて──すぐに戻す。

あなた
いえ……大丈夫です

柔らかく、でもきっぱりと言う。
あなた
人がいると、あまり眠れないので

それ以上は言わない。
理由を説明するつもりもなかったし、
無理に理解してもらう必要もなかった。

──それは、ただの線引きではなく、自分の中の揺るぎないルールだった。
伊地知さん
伊地知さん
……そうですか


伊地知さんはそれ以上踏み込まず、ハンドルに意識を戻した。
その距離感が、少しだけありがたい。

ページをめくろうとした、そのとき。
あなた
(……あれ)


ふと、昨日の光景が脳裏をよぎった。

寮の共用スペース。
資料を片手にテレビを観てたはずが、気づけばソファで眠っていた。

目を覚ましたとき、肩にかけられていたブランケット。
誰が持ってきたのかは分からない。
近づく気配も、物音も、まったく覚えていなかった。
あなた
(昨日は寝ぼけてて、あまり疑問に思わなかったけど……なんで、起きなかったんだろ)

人が近くにいれば眠れない。
ほんのわずかな気配でも、意識は浮上する。
誰かが近づけば、反射的に目が覚める。



それが、ここ1年間──ずっと当たり前だったはずなのに。
あなた
(……気を引き締めないと)
資料に視線を戻す。
任務概要、建物構造、想定される呪霊の傾向。


文字を追いながら、意識を“今”に繋ぎ止める。
あなた
("あのとき"に決めたはずだ…)

人前では眠らない。
意識を手放さない。


自分が"いない時間"を、作らないために。


車内には、変わらず寝息とエンジン音だけ。
外はすでに夏の朝の光に包まれ、日差しが少しずつ車内を照らしていた。

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