SHOTA,W
小さい時から、俺の隣にはいつも強く凛々しい彼がいた。
強く、要領も良くて、器用で……俺が持ち合わせない全てを持っていた。俺はそれを素直に尊敬していたし、彼が褒められたら俺も嬉しくなった。
「涼太はすごいよな!」
「翔太だってすごいよ」
本当の兄弟ではないが、それでも俺と涼太は2つに一つ。運命共同体というのに相応しく、双子座のカストルとポルックスの如くずっと側にいた。
「ねぇ、しょーた。俺、国王さまの養子になるんだって」
そう言われた時、俺は素直に嬉しかったんだよ。涼太と兄弟になれる。これまで以上に側にいられるって。だけど、涼太はちょっと嫌そうだったね。
今考えたらわかる。涼太の両親は、国王との繋がりがもっと強固なものであればと望んでいた。傍系王族ならば誰もが持っている欲だ。
そのために自分の子供を国王に差し出すのだ。まるで、売り物にでもなった気分。
涼太はよくそう言っていた。
「ねぇ、翔太は武官? 文官?」
「……涼太は?」
「俺は武官。頭を使うのは得意じゃないし。俺は翔太を守れる武官を選ぶ」
「……じゃあ俺も武官」
武官になるか文官になるか選ぶのは10歳。俺としてはどちらでもよかったけど、涼太が武官なら、とそういう理由で武官を選んだ。
涼太はどんどん強くなる。俺はどんどん切り離されていく。
そうか……俺は、ずっと涼太の後ろを付いてきていただけなんだ。と、突然その時俺は立ち止まったんだ。
「翔太?」
「…………ごめん、俺ちょっと文官棟行ってくる」
涼太ができないこと。涼太と同じではなく涼太を越せる方法……。それを探し求めて俺は武官棟にいるときより文官棟に来ることが多くなった。
この時すでに、父上の関心は俺から離れて、役人たちからも涼太を求める声が大きくなっていたことを解っていたから。
「第一王子が翔太さまでなく涼太さまであれば彼が次期国王だったのに」
「涼太さまが国王になるのは難しいんでしょうかねぇ」
「だって、彼は翔太さまと違って養子だから」
「逆であれば」
「涼太さまが次期国王ならば」
「涼太さまこそ国王に相応しいのでは?」
――――やめて。俺を否定しないで。
次期国王として、ずっと生きてきた。それがなくなったら、俺には何が残る?
涼太には、たくさんの才能と、努力が実った輝かしい実績がある。それがあれば……彼は国王に、と望まれなくても幸せに生きられる。
だけど、俺は……?
……次期国王でなくなれば、第一王子でなくなれば、俺は何が残る?
そう考えた時、俺は何も答えが出なかった。涼太よりも優れていなければ、涼太よりも望まれなくては、そう焦ってもがくたび、飄々として真っ直ぐに前だけ見つめる涼太が恨めしくて、どんどん悪い感情が溢れかえってきた。
目の前がどんどん真っ黒に塗られて、前が見えなくなっていく。
父上は長く続く戦争でおかしくなった。俺が国王の執務室へと足を運んだ時のこと。
バサッと俺が持っていた紙束が垂直に落ちていった。
俺が見上げた視線の先には、父上の顔。……地面についているはずの足は、地面から離れて浮いていた。
「ち、ちうえ…………?」
唖然としたまま声が出ない。父上の机の上には遺書らしきもの。……遺言書だった。
――――次の国王は、宮舘涼太に任せる。戦争を終わらせ立て直せ――――
その文言を見た瞬間に、俺の中でプツンと音がした。……それは多分、切れてはいけない糸で、俺の全てが足元から崩れていくような、そんな感覚がした。
最初から、決まっていたことなのかもしれない。最初から涼太を国王にするために、父上は涼太を養子にしたのかもしれないし、最初から父上は俺に期待なんてしていなかったのかもしれない。
戦渦の国から逃げ出した。国に背を向けて、ただただ遠い場所を目指して。
どこでもいい、自分じゃない誰かになれる場所へ。俺のことを誰も知らない場所へ。
――――ただ、それだけ。
それだけを求めて。
それからの俺は、ただただ涼太を葬るために。俺が得るはずだった全てをあるべき場所に返すため。……涼太、お前が持つべきものではないと俺が証明してやるよ。
……国王になりたいと思ったことはなかった。だけど、どこかで思っていたんだろうか。
俺が得るべきだったと。
国王の証。王の証。
あぁ……涼太、俺達はどこで間違ったのかな。俺が望んだのはただ……お前と、一緒に、隣に……それだけだったのに。
「…………翔太」
望んだ人が目の前にいる。
10年経って、前より凛々しくなった。格好だけ見たら本当に国王に相応しい貫禄じゃないか。
静かな花園。百合の花だけが俺達を見ている。
「変わってないな、何も」
何が? 俺は、変わったよ。この10年、俺がどんな思いで過ごしてきたか。お前にはわからないだろう?
ぬくぬくと玉座に座り、愛する人達に守られて。なんでここに来た? 俺のことなんて忘れて生きていればよかったものを。
どうして……そんな顔をする?
昔から変わらない、恋慕するような、慕うような、強さの中に優しさを秘めた、冷たい中に炎を灯したような目。
……俺はその目が、だいっきらいだったよ。
「なんで、俺をここに呼んだの?」
そして、大好きだったんだよ。
「……俺はお前を葬るために、10年間生きてきた。……決着をつけよう。涼太」
翔太くんが心の中に抱えていたことは、翔太くんが一人では抱えきれないものでした。彼の隣にはいつも舘さんがいたことや、生まれながらにして次期国王として扱われていたこともあり常に焦りと不安を感じていたんですね。
翔太くんなりの過去や心との決着の付け方が、こういう風に舘さんと対立して突き放すことだったんです……。







![💜17時のスイッチ[完結]](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/EOkNL2MhxNOnLeVbLBmpGszqo363/cover/01KDMET6R8CVT70D1RTK9AKTAJ_resized_240x340.jpg)



編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。