*******続き*******
ロッカールーム
まだ朝の静けさが残っていた。
白石は自分のロッカーを開け、スクラブを取り出す。
すると、背後で扉が開く音がして緋山が入ってきた。
緋山は髪をかき上げながら
ロッカーに荷物を置き、手早く着替えを始める。
短い会話を、一言二言交わし、
しばらくしてーー
緋山は少し迷ったあと、切り出した。
白石が一瞬手を止め、横目で緋山を見る。
分かりやすく動揺する緋山を見て、
白石はふっと笑った。
白石は素直に言葉を続ける。
緋山の眉がかすかに動く。
緋山は心の中でそう呟いた。
昨夜、たまたま廊下で見かけたあの光景が頭に浮かぶ。震える手で、それでも必死に食らいついていた姿を。
だが緋山は表情を変えず、そっけなく返した。
淡々とした口ぶり。
しかし、ほんの一瞬だけ口元がゆるむ。
白石はそれを見逃さなかった。
胸の奥で小さく笑みがこぼれる。
そのとき、ロッカールームのドアが開き、
あなたの下の名前が入ってきた。
声は小さく、視線は泳ぎがち。
白石や冴島の前では
少しずつ柔らかくなってきた態度も、
緋山の前ではまだ硬い。
緋山はスクラブに袖を通しながら、
にやりと口角を上げる。
あなたの下の名前は背筋を伸ばし、
慌てて返事をする。
冷たく突き放すような言い方に、
あなたの下の名前はうつむいて小さく返事をする。
白石はそんな二人を見ながら、
心の中で思う。
ぶっきらぼうで、
素直に褒めないところはそっくりだ。
あなたの下の名前には悪いと思いつつ、
白石は思わず笑ってしまう。
それからーー
緋山はロッカーを乱暴に閉めると、
振り返って言った。
あなたの下の名前は慌てて後を追った。
白石は一歩遅れて立ち上がりながら、思う。
ロッカールームを出る
三人の足音が重なり、一日が始まる。
救命での数日間は、
嵐のように過ぎていった。
あなたの下の名前は最初のころのように
慌てふためくことは減った。
もちろん判断が追いつかない場面や、
白石や緋山に助けられる場面はまだ多い。
それでも、誰よりも遅くまで残って練習し、
空いた時間には医学書を開いていた。
その姿は、いつの間にか
フェローたちにも自然と知られるようになっていた。
認めたくない気持ちを口にしながらも、
緋山がほんの少しだけ表情を和らげる場面もあった。
ただ、まだ――
あなたの下の名前の「本当の力」には誰も気づいていない。
彼女自身もまた、
ただ必死に食らいつくだけの日々を送っていた。
ある日の夕方
医局のデスクで
カルテ整理をしていた黒田が、ふと手を止めた。
横にいた三井が顔を上げる。
黒田の言葉に、三井は少し目を細めた。
三井は一瞬考えた後、静かに頷いた。
救命センターに、
新しい夜が訪れようとしていた。
その夜
待機室には、
いつもの緊張感と違うざわめきが漂っていた。
今夜は特別――
フェロー五人と冴島だけでの当直。
黒田も三井も控えてはいるが、
基本は「自分たちでやり切れ」という指示だった。
それぞれが椅子に腰を下ろし、
バラバラに雑談を始める。
白石が缶コーヒーを手にしながら、
小さくつぶやく。
緋山が口角を上げる。
藤川がいつもの調子で笑うが、
声にはどこか焦りがにじんでいた。
藍沢がその横で、
書類をめくりながら淡々と告げた。
緋山も即座に噛みつく。
緋山の目が鋭さを増す。
藤川の言葉に、藍沢が視線を上げる。
緋山は皮肉な笑みを浮かべ、藍沢を睨む。
藍沢はあっさり肯定する。
白石がなだめるが、火花は消えない。
白石は苦笑いを浮かべ、あなたの下の名前に視線を向ける。
あなたの下の名前は小さくうなずいたが、
内心は圧倒されていた。
それでもーー
小さな決意を胸に、あなたの下の名前は背筋を伸ばした。
早速、最初のコールが入る。
ストレッチャーが運び込まれると、
フェローたちは一斉に動き出した。
藍沢が的確に指示を飛ばす。
あなたの下の名前は迷わず手袋をはめ、針を進める。
血液が返ってくるのを確認し、スムーズに固定した。
彼女の手が自然と動くのを、全員が横目で見ていた。
緋山と藍沢は並んで処置を進める。
藤川の手がわずかに震え、ガーゼがずれる。
再び血が滲み、冴島が鋭く声を飛ばした。
その後も搬送は続いた。
心筋梗塞疑い、頭部外傷、転倒による骨折……。
夜の救命は、途切れることなく患者が押し寄せる。
フェローたちは競うように前へ出た。
そんな中、あなたの下の名前は、
ルート確保、採血、モニター装着など、
次々と確実にこなしていった。
確かな手応えがあった。
深夜二時。
救急車のサイレンが再び鳴る。
患者は顔から大量に出血しており、
呼吸はぜいぜいと途切れがち。
白石が顔をしかめる。
緋山が言うが、藍沢は首を振った。
冴島がそう言いかけたそのとき、
あなたの下の名前はあることを思い出した。
そしてーー
全員の視線が、一斉に集まった。
*****続く*****




















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。