第4話

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2025/09/29 09:00 更新
バスは午後の陽炎を溶かしながら、都市部へと滑り込んでいった。



車窓の外には歪なビル群と、喧騒にかき消された太陽が映っている。






漣は最後尾の席で、窓の外を無表情に眺めていた。





斧はタオルでくるまれ、足元に置かれている。



誰も近寄らないのは、彼女の"空気"のせいだった。





──都市の空気は、山のそれよりもさらにうるさい。






バスターミナルに到着したのは、夕暮れ前。






彼女は誰に促されるでもなく、荷物も持たずにバスを降りた。






街の端にある、古びた案内板を眺める。





その中に小さく、英語で書かれた『AIRPORT』の文字を見つけた。







──飛行機。
──もっと遠くへ。退屈じゃない場所まで。







地図は頭に入れた。徒歩で約40分。






彼女は斧を片手に歩き出す。






空港と言っても、そこは民間機と軍用機が混ざり合う、まるで倉庫のような場所だった。





屋根の一部は剥がれ、天井からは配線が見えている。




働いている人々も雑で、金属探知機は常に鳴っていた。






だが、漣は堂々とそこに立っていた。





カウンターの係員が訝しげに顔を上げる。

「……ちょっと、君、それ何持ってるの?」






漣は何も言わない。






斧の布を少しだけめくり、「荷物」と一言だけ返す。






係員は一歩後ずさる。

「あ、はい……持ち込みは無理だから……預けてくれれば」






静かに頷き、斧を預け用のカートに載せる。






その一連の動作が、まるで爆弾処理班のように丁寧で、静かだった。




だが──




空港の一角で、男の怒鳴り声が響いた。






「おい小娘ッ!どこでその斧手に入れた!?」






一人の男が近づいてくる。


軍服に似たジャケット、左腕には奇妙な蛇の刺青。






周囲の係員がざわつき、距離を取る。

どうやら、地元で名の知れた荒事屋らしい。






「それは俺の仲間が持ってた武器だ。盗んだな?」






漣は静かに振り返る。表情は、変わらない。






──つまらない。
──でも、斧を触られるのはもっとイヤだ。






男が手を伸ばしたその瞬間。



ザッ

漣の足が一歩、男の懐に滑り込んだ。






右腕が肩ごと上がる。





布の隙間から、戦斧の刃先がわずかに覗いた瞬間──



「待って!お客様!!」

係員が間に割って入る。






「そ、その方は今フライト予約されてる乗客でして……!あの、ややこしいことは……!!」






男が歯を食いしばる。

「クソ……次に会ったら斬るぞ……!」






彼女は何も言わず、斧を下ろした。






飛行機の中。

小さなプロペラ音が、静かに空気を揺らしていた。






漣は窓際の席に座り、下界を見下ろしていた。




オレンジに染まる大地が、遠くへ遠くへ流れていく。







──どこへ行っても退屈はついてくる。
──でも、今は少しだけ……面白い気がする。







遠く、坂本商店がある街へ。




漣は、静かに近づいていた。

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