第3話

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2025/09/23 00:18 更新
東南アジア某国、山奥の刑務所からの脱獄──
それは静かに行われ、静かに終わった。






その翌日。




人目を避けるでもなく、少女は町へと降りていた。


刑務所から徒歩で三時間。


古びたバスターミナルのベンチに、スカートの裾を丁寧に整えながら腰掛ける。

顔には汗一つなく、服も乱れていない。




片手には大型戦斧。


まるで日用品のように、無造作に担がれていた。





真昼の空気はじっとりと重く、どこからか香辛料の匂いと、油で焼けた鳥の匂いが漂ってくる。





少女はそれらすべてを、どうでもいいと言わんばかりの表情で見つめていた。






だが──







「……やることない」






呟きは小さく、風の中にかき消えるような声だった。





独房で何百回も繰り返したような、無機質な響き。






彼女の名前は漣(さざなみ)。



年齢は17。身長150センチ。





その華奢な身体に似合わぬ戦斧を、まるで自分の腕の延長のように扱う。






──人を傷つけることに、罪悪感はない。
──ただ、退屈だけが我慢できない。






駅前の広場では、屋台の店主が騒いでいた。




「誰だお前、武器持ってんじゃねぇ!警察呼ぶぞ!」





そう怒鳴る中年男を、漣はじっと見つめる。





その目に、感情はない。





ただ、瞬きの間に何をすべきかを計算する、冷たい鋭さだけがあった。





──斧は振らない。
──今日は、戦う気分じゃない。






少女は立ち上がると、ベンチの影に斧を隠すように置いた。





そして、ポケットから取り出した何かを見つめる。





金属片。鍵の部品。

──独房を出たときに壊した鍵の、最後の一片。






彼女はそれをしばらく眺めた後、無言で地面に落とした。




そして何も言わず、それを踏み砕く。




目的はない。





でも、止まる理由もなかった。






少女は斧を再び手に取り、肩に担いだ。




大人たちの目が怯えながら逸れていくのを感じながらも、漣は何も言わずに歩き出す。






昼下がりの市場を抜け、雑踏の中を静かに進んでいくその背中は、まるで最初から誰の視界にも映っていなかったかのように淡い。







音も無く、気配も無く、ただ一歩ずつ。








──名を呼ぶ者もいない。
──だが、彼女は確かに存在している。







その証拠に。



市場の一角で、「でっかい斧持った青髪のガキが通ったぞ!」という叫び声が、少し遅れて響いた。






漣は一度だけ、無表情のまま小さくつぶやく。






「……ばれたか」







──次の町へ向かう、午後のバスが動き出す。






その後部座席に、小さな影がひとつ、静かに揺れていた。


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