───寒い
中也から逃げたい一心で、足元の空間を爆破し続け、どこまでも上昇してしまった報いだろうか
視界の端が白く霞み、肺が必死に酸素を求めて喘ぐ。
けれど、取り込める空気は薄く、冷たい
(……ああ、私、死ぬんだ。…これで、いいんだよね)
意識の糸がぷつりと切れる
推進力を失った体は、重力に引かれるまま、
ヨコハマの街へと真っ逆さまに墜落していった
鼻を突く、強い消毒液の匂い
重い瞼を押し上げると、真っ白な天井と、
シーリングファンが回っているのが見えた
───驚いたのは、体の軽さだった
墜落の衝撃で粉砕されたはずの骨も、
内臓も、まるで最初から何もなかったかのように
「完璧に」繋ぎ合わされている
視線を動かすと、そこには黒いボブカットに蝶の髪飾りをつけた女性がいた
与謝野晶子
ポートマフィアの敵対組織、武装探偵社の専属医
その顔を私は資料で知っている
けれど、彼女は私をただの
「死に損ないの少女」として見ているようだった。
まるで爆発したような…と続ける彼女から目を逸らす
椅子にかけられたあなたの服は、
あの空中散歩の余波で無惨に焦げていた
中也を焼いてしまった記憶が脳裏に蘇り、指先が微かに震える
いつもなら、この震えを中也が止めてくれた
彼への「信頼」という楔があるからこそ、
私の異能は彼の手の中でだけは凪いでいられたのだ












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!