起きた瞬間からバタバタだった。
今年初めての被写体の仕事。
コムドット全員での撮影。
スタジオ入りの時間も早くて、
車の中ではみんな半分寝てる。
俺は窓にもたれて、
ぼーっと外を見ながら思った。
「今日、長そうだな。」
そんな軽い気持ち。
この時は、
まだ知らなかった。
今日のやまとが、
とんでもない仕上がりで来るなんて。
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スタジオに入るとすでにメイクさんたちが
準備してくれていて、白いライトと大きな背景布。
いつも見る光景。
 ̄ ̄ ̄
「…おはようございまーす」
挨拶してそれぞれメイクルームへ。
俺は先に座ってベースメイクをしてもらう。
鏡越しに見る自分は、まだいつも通り。
「今日はナチュラルめでいきますね。」
いつものメイクさんの声に、
「お願いします」って返す。
この時点では、
本当に普通の日だった。
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それからしばらくしてから事件は起こった。
隣の席に、やまとが座った。
……瞬間。
「…っ………」
声が、出なかった。
まず、髪。
いつもよりも撮影用で立体感があって、
きっと前髪も、計算された流れ。
服。
シンプルだけど清潔感があって、サイズ感も完璧で、
肩のラインが綺麗に出てる。
さらに。
伊達メガネ。
普段は滅多にかけないやつ。
細フレームで、レンズにライトが反射していて、
いつもと雰囲気がまるで違う。
もう。
なにこれ。
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俺は無意識にやまとから視線を逸らした。
(こんなの無理でしょ…反則だよ……)
心臓が、一瞬で早くなる。
「……え?」
自分でもびっくり。
なにこの反応。
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やまとは、
鏡を見ながらスタッフさんと話してる。
「今日、いつもと違うオーラ出てていい感じだね〜」
「いやほんとうに、毎回撮影の度にかっこよくしていただいて感謝しきれないです笑」
声も、なんだかいつもより落ち着いて聞こえる。
その横顔が、本当に本当に綺麗すぎて。
俺は、
完全に固まってた。
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「ゆうた?」
隣から声。
「……なに」
「さっきから、全然こっち見ないけど」
「…!?…見てるよ」
「…見てないよ。目合わない。」
「……なんで?」
やまとが、
くるっとこっちを向く。
その瞬間。
伊達メガネ越しの目と、
がっつり合ってしまった。
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「…!?……」
やばい。やばいって。
なんか眩しい。
キラキラしてる。
直視できない。
俺は、反射的にまた目を逸らした。
「え、なにその反応」
やまとが笑う。
「ひどくなーい?」
「………違う」
「じゃあなに?どうした?」
「………今日は、やまとが光って見える。見れない。」
「…ん?……は?」
本人は意味が分かっていないらしく、笑われた。
「今日はメイクも髪も服も、もちろんメガネも、」
小声で言う。
「全部、完璧に仕上がってて、」
「……いつもより輝いてる…。」
言い切った瞬間、
自分で恥ずかしくなる。
やまとは一瞬きょとんとしてから、
ふっと笑った。
「なにそれ笑」
「ほんと、」
「目、合わせられないくらい。」
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やまとは、
少し照れたみたいに首を触った。
「いつもと雰囲気ガラッと変えてくれたのは、
メイクさんたちの力だよ。」
「……でも、やまとはそれだけじゃないじゃん」
「……?」
「…っ……元がいいから。」
言ってから、自分で後悔した。
顔、熱い。
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撮影が始まってからも、
やまとはずっと“完成形”だった。
立ち位置に入るだけで、
空気が変わる。
カメラマンさんも、
「やまとくん、いいですね〜」って何度も言う。
ポーズも、表情も、
全部型に完璧にハマっている。
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俺はやまとの横で一生懸命表情をつくっているのに、
正直、集中力が削られる。
チラッと見える横顔。
ライトを浴びた輪郭。
メガネ越しの視線。
……心臓に悪い。
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「ゆうたくん、目線こっちに頂戴~」
カメラマンさんに言われて、はっとする。
「あ、すみません。」
集中しろ。
仕事だ。
分かってる。
分かってるのに。
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休憩中。
控室で水飲みながら、やまとをちらっと見る。
やっぱり今日は完成されすぎてる。
俺は、小さく息を吐いた。
「……今日、かっこよすぎ…」
ぼそっと。
でもやまとが聞き逃さない。
「ん?」
「なにもない。」
「絶対今、俺の事褒めたろ?」
「……褒めた。かも。」
「聞かせてよ。」
「……無理」
やまとは俺の前に立って、
顔を近づける。
伊達メガネ越しの視線。
……近い。
「……ねえなんで〜言ってよゆうちゃん。」
「…むりだよ。心の準備ができてない」
「なにそれ笑」
笑いながらも、
やまとは離れない。
「ほらゆうた、」
「……」
「ちゃんと言って」
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俺は、少しだけ目を伏せてから言った。
「……俺の彼氏が今日は…異常に仕上がってて……」
「…直視できない、です。」
やまとは一瞬止まってから、
小さく笑った。
「可愛い。」
「……言うな。」
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気づけばもう撮影後半。
メンバーみんなで並ぶカット。
やまとはいつも通りセンター。
ライトに照らされて、
伊達メガネがきらっと光る。
俺は隣で立ちながら、
(……これ、ファンの子やまとみて倒れるやつだ)
って思ってた。
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終わってスタジオを出る頃にはもう夕方。
外の空気が冷たい。
車に乗る前、やまとが俺の隣に来る。
「…今日どうだった?」
「仕事?」
「いや仕事もだけど、俺のビジュ。」
滅多にやまとのビジュアルを褒めることがないからか、
揶揄うように何度も何度も聞いてくる。
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「一日中、輝いてましたよ」
素直に言う。
やまとは、少し照れた顔で言った。
「珍しい。褒めすぎ。」
「事実だから。」
「伊達メガネも?」
「それが一番。心臓に悪い。やめて。」
「じゃあもう撮影終わったし、外そうかな」
「………だめ。」
「どっちだよ笑笑」
⸻
家に帰って。
やまとはメガネを外してラフな部屋着になる。
一気に、いつものやまと。
それを見て俺はやっと息を吐いた。
「……やっと、戻ったね」
「ん?なにが?」
「いつもの、、俺のやまとに」
やまとはくすっと笑って、
俺を抱き寄せる。
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「今日さ?」
耳元で言われる。
「ずっとゆうたに見られてたの、気づいてたよ」
「……見てない、し」
「嘘だ」
「……ちょっとだけ」
「ん?……ちょっとかな?」
「……かなり…です………」
「でもさ、仕方ないじゃん。
……やまと今日かっこよすぎたんだもん……」
やまとは、
俺の額に軽くキスした。
「…ありがとうね、ゆうた。」
「………なにが、」
「ちゃんと、俺の事めちゃくちゃ好きでいてくれて」
俺はものすごく恥ずかしくなって、
その胸に顔を埋めた。
⸻
嫉妬じゃなくて。
不安でもなくて。
ただやまとが眩しすぎて、キラキラしすぎていて、
目も合わせられなかった日。
それだけなのに。
すごくすごく幸せで、
改めて世界一の彼氏だなと思った1日だった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。