第111話

104話
911
2026/01/02 12:00 更新
「あなたさんほんまにありがとうね!お疲れ様っした!」

『いいえ!聖人くんも疲れ様〜』


3人を順番に降ろし終わって、さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、車の中が静かになる。
車内には海龍と私のふたりだけが残った。


『……前、来る?』

「おん、行くわ」


つい、助手席に誘ってしまったが、何事もないように応えてくれてほっとする。

隣に腰を下ろして「お願いしま〜す」と話す
その声が思ったより近くて、胸がふっと熱くなる。


(2人きり……だけど、もうすぐ解散なんだ)


ナビを開いて、彼の家の住所を履歴から選ぶ。

表示された所要時間は、10分弱。


(……この10分が欲しくて、送るなんて言ったんだよね、私)


安易な自分に嫌気がさして笑いになる。


『じゃあ、家向かうね』


胸の奥がきゅっとなるのを隠して、そう言うと、


「あー、待って」


遮るようにカイリュウの声が落ちてきた。


『ん?』


隣を見ると、彼はどこか言いづらそうに眉を寄せていた。


「あなたも…明日休みやんな」

『う、うん』

「もう……帰りたい?」

『え、』


頭の中が一瞬真っ白になる。

(ど、どういうこと……?)

彼はゆっくり息を吸って、言葉を探しているみたいだった。


「……少し、どっか行かん?」


心臓が跳ねた。
跳ねた音が車内に響きそうなくらい、大きく。

一瞬で、さっきまでの寂しさが全部消える。

もたつく私をよそに、彼は続けた。


「いや、疲れてると思うし……帰りたいなら全然ええんやけど」


その言葉を聞き終わる前に、口が勝手に動いた。


『い、行きたい!』

「……え?」

『…行きたい』


自分の声が予想よりずっと大きくて、顔が一気に熱くなる。

彼はぽかんとしたあと、ふっと笑った。


「はは……元気やな、あなた」

『わ、なんか……恥ずかしい……』


ハンドルを握る指先まで熱くて、まともに顔が向けられない。


「いや、俺も誘ってんねんから……恥ずいやろ」


その落ち着いた声が、ずるくて、
胸の奥がじんわり溶けていく。


『……なんとなく、帰りたくなかったから……嬉しくなっちゃって』


言い訳がましく言葉を紡ぐが、後悔が押し寄せる。


(うわ、勢いでとんでもないこと言ったかも、)


送るって言ったのも、
一緒にいたいって気持ちがあったからなのに。

“どこか行かない?”なんて言われたら、
そんな気持ち、隠せなくなるに決まっていた。

プリ小説オーディオドラマ