ある日、赤い傘の男はその不気味な空間を歩いていた。周囲にはただひたすらに冷たいコンクリートの壁しか見当たらない。まるで牢獄のようなこの場所で、赤い傘の男はいつものように一人、どこか虚ろな気分で歩き続けていた。
突然、どこからか音が響く。途端にその音が大きくなり、まるで壁を突き破るように近づいてくる。赤い傘の男が反応する間もなく、 何かが目の前に迫ってきた。
「......これはまずいな。」
赤い傘の男はその音の正体をすぐに察知する。異常な速度で迫ってくるそれは、暴走バスのような何かだった。だが、ここは現実ではない。この空間では、物理的な法則がすべて無効となり、彼は自在に実態を持つか、無くすかを選ぶことができる。
赤い傘の男は何の躊躇もなく、そのまま無理に避けたり逃げたりすることはしなかった。
冷静に立ち尽くし、バスがどんどん近づいてくるのを見つめていた。
その瞬間、背後から誰かが飛び出した。それは、ツギハギ男と呼ばれる、血まみれの赤いジャケットを身に纏いピンク髪で現れるいつもの遊び人だった。彼はこの謎の空間においても、その奇妙なテンションを崩さずに登場してきた。
「赤傘!!待ってバスが止まらない!!(面白がりながら)」
ツギハギ男は赤い傘の男に向かって叫ぶものの、その前にバスが直進してきていた。しかし、ツギハギ男が赤い傘の男に触れる暇もなく、その先に駆け寄ってきたのは、反応が早い這いばい男だった。
「赤傘!!」
這いばい男は躊躇なく赤い傘の男を背後から強く押しのけ、そのまま自分の体を盾にしてバスの前に立ち塞がった。バスがすぐ目の前に迫り、まるで何もかもが一瞬で消え去るように感じたが、赤い傘の男は無事で、何の影響もなかった。
バスが一瞬、目の前で止まった後、ツギハギ男がその場に立ち尽くし、目を丸くしていた。無傷の赤い傘の男を見ながら、ツギハギ男は混乱した様子を見せた。
「な、なんだよ…あ、 赤傘大丈夫なのか?怪我した?面白いか?」
「…問題ない。というかこの状況の何処が面白いんだ……」
赤い傘の男は冷静に答える。だが、その瞬間、彼の心はほんの少しだけ乱れていた。背後で彼を守った這いばい男の存在が、自分の中に微妙な感情を引き起こしていたのだ。
「お前、何してんだよ...!」
這いばい男はツギハギ男に向かって、激しく怒鳴った。
「無駄にバスを暴走させて、他の怪異を危険に晒さないでよ!!」
「ちょっと待てよ、オレはただ...」
ツギハギ男は言い訳しようとしたが、怒りの収まらない這いばい男はそれを許さなかった。
「もうちょっと周り見てよ。お前が遊んでる間に怪異が死ぬんだぞ!」
ツギハギ男は結局その場から逃げ出していった。誰かに注意されることをあまり好まない彼だが、この状況では反論する気にもならなかったらしい。
その後、空気が一変し、赤い傘の男は少しだけ自分の心臓の鼓動が速くなっているのに気づいた。何もなかったかのように無傷で済んだのだが、這いばいが自分を守ったあの瞬間、何とも言えない感情が胸に湧き上がった。
「...ありがとう。」
赤い傘の男は、軽く頭を下げてお礼を言った。その時、少しだけ声がかすれていたことに気づく。普段は照れたりしない自分が、今は少しだけその言葉に力が入ってしまった。
「別に。」
這いばい男は少し無愛想に答えたが、その表情にはどこか優しさが含まれているように感じられた。赤い傘の男が無事であることに、 何か安心したような、少しだけ満足げな顔を見せていた。
しかし、赤い傘の男はその顔を見て、何となく心臓がもう一度速くなった気がした。
「...ありが…とう。」
赤い傘の男は再び小さくつぶやいた。その言葉に、這いばい男は驚いた表情を一瞬見せたが、すぐに無理に笑って言った。
「気にしないで。僕は”君”を守るためにここにいるだけだから。」
その言葉に、赤い傘の男は少しだけ顔を赤くしたような気がした。そして、彼の胸の中で、何か新しい感情が芽生えていることに気づいたのだった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。