及川「そういえばさー…」
男子バレー部の三年生一同は、購買でパンを買った後中庭に集合していた。
こうして三年生が集まることは珍しいことではなく、時には彩乃も読んで六人でいることもある。
及川「来週夕ヶ丘公園で夏祭りがあるんだって」
岩泉「夏祭り? ガキの頃行ったやつか?」
及川の持っている牛乳パンに齧りつきながら、岩泉はそう聞いた。ゲンナリとしながら及川は「そうそう」と頷く。
及川「いや〜あの時は実に愉快だった!」
岩泉「輪投げも金魚すくいも俺に負けてたくせにな」
小学生の頃及川と岩泉はその祭りに行ったことがあるという。
その時に「何方が多く取れるか」という勝負をし、輪投げや金魚すくい、ヨーヨー釣りなど様々なことを行ったようだ。しかし、どれも岩泉の全勝だったらしい。
及川「岩ちゃんもすっ転んだ子供が持ってた焼きそばくらって化け物みたいな姿になってたじゃん」
岩泉「殴るぞ」
話している内容は内容だが、傍から見ているとイケメンと美女が話している構図なので大変絵になるようだ。彼らを見ている人達が口々に話す。
「やっぱ及川クンってカッコイイよねー…」
「ほんそれな。でも西条さんの横顔ガチビューティフォーじゃん?」
「んーでも、私は花巻君の顔が好きだな」
その噂話に、あなたは内心不安を抱く。
青城男子バレー部は試合している姿が格好良いと評判で、校内どころか学外にもファンがいる。突然その中にはあなたが想いを寄せる彼も入っているのだ。
取られないか不安、と言うと否定は出来ない。なぜなら自分は彼の隣にいたいから。
及川「でさ、今年は皆んなで行かない? って話」
松川「却下」
岩泉「少なくともお前とはもう行かねー」
花巻「俺らだけで行く?」
及川「ちょいちょい!! 恥ずかしがらなくても良いんだよ!?」
怒涛の否定の連鎖に、本気で言った及川はたじろいだ。
松川は過去に及川が言っていた言葉を思い出す。
及川「割と頑張ってみる心算♪」
松川(…なるほど)
夏祭りで向こうに行動してもらって、リア充を誕生させるのか。でもだとした場合、この場にいる全員で行く必要性はあるのだろうか。そこが突っかかる。
松川「まぁ、予定空いてたら…」
花巻「松川がデレた!?」
岩泉「でれ…?」
言葉を濁した松川に、花巻が突発的に言った。
松川「デレたってなんだよ国見じゃあるまいし」
「俺もデレる訳じゃ無いですけど」
談笑していると、一年生である気怠げそうな国見がそこに立っていた。金田一も後ろで国見の影を追いかけてきている。
松川「噂をすれば」
国見「何の話してるんですか、こんな目立つ場所で」
死んだ魚の目で、ベンチに座っていたり塀に寄りかかっている先輩たちを見下した様子で言った。
及川「丁度良かった! 国見ちゃん追加で!」
国見は「居酒屋かよ」と思いつつ「何の話ですか」と返す。
及川「皆で夏祭り行くんだ! 国見ちゃんと金田一も来てくれるよね?」
国見「え、めんどくさ…」
及川「先輩命令」
花巻「職権乱用ワロス」
空のペットボトルのゴミ箱に仕舞いながら国見は呟くが、その言葉にぐぅのねも出なくなってしまう。
先輩命令。比喩的に表現すると王から部下への絶対命令である。
金田一「国見何やって…あれっ、先輩方いたんすか。チワッス!」
そこに金田一が姿を現した。
金田一が一礼した後、及川は彼の前に仁王立ちする。
及川「ねぇねぇ金田一、来週の木曜日って空いてるー?」
金田一「えー…た、多分?」
及川「じゃあ夏祭り一緒に行こうよ」
金田一「祭りやるんすか!? 良いっすね!」
金田一は明るく返事を弾ませると、ダラダラとした足取りでこの場を離れようとする国見を捕らえた。
ブレザーの袖を引っ張りながら言う。
金田一「勿論コイツも連れていくんで!」
国見「え、ちょ待ってよ。何で勝手に決めて―」
及川「やったー! さっすが金田一だね!」
及川が裏表ない笑顔でVサインを見て、国見は溜め息を着く。
国見「逃げ場ねーじゃん…」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。