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耳元で囁かれてしまい、驚きの声をあげた。
著名な映画監督のお母様と響そっくりのお父様に会うなんて、
シュミレーションをしっかりしてからでなければ無理だ。
車窓から見える景色がビルだらけになってきたところで、電車から降りた。
そこから地下鉄に乗り換えて、東京の地下深くへと潜り込んでいくようなエスカレーターを降りては、登ってを繰り返して、
そしてまた、電車に乗り変えて……、
いくつか乗り換えた後に、ようやく駅の改札を出た。
そばには目黒川が流れている。
そういえばこの近くに収録スタジオがあったな。なんて思い出しながら、街路樹が生える道を響と共に歩く。
響は勝手知ったる様子でマンションの中に入って行った。
オートロック式のマンションは、
入り口はこぢんまりとしているが、中に入ると、中央が吹き抜けになっていて、
打ちっぱなしのコンクリートの建物はモダンでおしゃれだ。
いいかげん、どこに連れて行こうとしているのか尋ねてもいいだろう。
そう思い、エレベーターに乗る響に声をかける。
エレベーターを降りるなり、響が目を細めて笑いかけた。
ご褒美をくれると言われても、なんなのかさっぱりわからない。
宗馬さんのような、誰かの家なのだろうか?
もしや、響のご両親の家とか?
いやいや、そんなはずはないし
と、言ったところで扉の前だった。
扉には何も書かれていないし、表札もない。
がちゃっと扉が開く。
彼は人差し指を口元へと当てて、内緒話をするように声を低めた。
手のひらに銀色の鍵を握らされる。
玄関を開けて部屋に入ると、広めのワンルームに出た。
ホワイトカラーのオーク材のフローリングに、淡いライムグリーンの壁。
部屋には壁の色と同じ、壁の色と同じグリーンの遮光カーテンがかかっているだけで、他に家具はない。
ベランダの扉を開けると、冬の空気が部屋の中に滑り込んだ。
もうすっかり夜で、ビルとビルの間からお月様が顔を出している。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。