侑生視点
舞華が瞬時に顔を青ざめ、俺の元に駆けつけようとしてくる。
だが俺は右腕で制止し、割れた両足でクソババアの元から離れた。
膝元まで割れてやがる…恐らくあのまま居続けたら、上半身と下半身が泣き別れになっていた事だろう。
割れ目から血が流れてる…早々に止血しねぇと、命の危険がある。
…にしてもクソ痛ェ。今こうやって考えを巡らせるので精一杯だ。
俺が魔族じゃなかったら即死だろうな…普通の魔法使いにはベセルが無い。ベセルは自身の魔力を貯蓄するだけじゃなく、相手の魔法攻撃を軽減する作用もある。
その為、この怪我は止血すれば何とか治るという事だ。
仮にも魔族は…『創造神の眷属』とも呼ばれているのだから。
残念といったその顔に、哀れみは無かった。
子を心配するような表情も、罪悪感すらも感じとれなかった。
…此奴も魔族だから、中々死なないのがしぶとい。
仮にも当主の座にずっといるのだから、それなりに覚悟はしていたつもりだが。
そんな事を聞いてどうする、と思った。
このクソはそもそも俺達の事を子供だと思っていない。
自分にとって都合のいい、ただの玩具としか見られていない。
…だからこそ裏切るなんて思ってもいなかったんだろ、馬鹿だから。
舞華が怒り狂った表情でクソに襲いかかろうとするも、彩星と清花が押さえていた。
確かにそうだ。今下手に近づくのは良くない、舞華まで俺と同じ…それ以上の怪我をする可能性もある。
そういう面で、軍隊長は離れなくていいのだろうか…さっきから離れる気がないように見える。
軍隊長は控えめな性格なのだろう、今回の会議で自分から発言する事は少ない。
まぁ、面倒事が減るだけで此方は助かるというものだ。
軍隊長の瞳の色が…漆黒から金色へと変化した。
いや、それだけじゃない。今“私の眷属”と言ったのが聞き間違いじゃないなら……まさかそうなのか?
だって此奴は創造神直属の組織『クウィッド』の軍隊長で、眷属がいるなんて聞いたこともない。
しかも俺達、魔族に向かって”眷属“と言うなんて…それこそ創造神しか思い当たらない。
でも奴ならさっき、映像に映ってたじゃねぇか。
“ヨノミツ”というのは神名だろうか。
確かにそうだ、軍隊長の傍にいれば…確実にクソに狙われる。
それよりも、先程まで人間味のあった軍隊長の声が、今はただ無機質な声にも聞こえる。
そして軍隊長の周りに覆われている黒い魔力が…急激に膨れ上がっている。
なんでだ、同じ人物のはずなのに。
控えめだと思っていた此奴が、一番面倒事を抱えてそうな気がするのは…なんでなんだよ。
普段表情があまり表に出ない北条ですら、そう尋ねる声は震えていた。
確かに…有り得る話ではある。
各地にある神像の姿…白髪の女は影武者で、目の前の女が本物だということは。
一方軍隊長は、そんな周りの視線を一切気にも留めずに、ローブの端に付いていた埃を払った。
そして奴が顔を上げると、緊張感が此方までビリビリと伝わってきた。
…なんだこれ。本当に、本当なのかよ。
…………………信じられない。
信じようと言葉では分かってはいるが、脳が理解しようとしない。
クウィッド軍隊長が、二代目創造神?
何故わざわざ役職を分ける必要がある?
何故…わざわざ俺達と同等の立場で会議に出席した?
俺だけじゃなく、その場が騒然とする中、軍隊長…否、創造神は虚空にそう呼び掛けると、奴の後ろに二人の少年が跪いていた。
片方の…ユウトと呼ばれた青髪には見覚えがある。
彼奴、捕まって牢屋に入れられていたはずじゃ?
そもそも何処までが真実だ?
エイトと呼ばれた男がユウトを宥めると、ユウトは何が誇らしいのかは知らないが誇らしげに微笑んだ。
そして、ユウトは小走りで此方に近付いてくる。
…伊織が触ろうとしていたのを避けた?そんな早く動いたのか?
そしてやはり顔を見る限り、さっきの奴で間違いない。
ただ、何処か怪我している訳でも無ければ血の匂いもしない。痩せこけている様子もない。
まさか…過去に”録った“とでも言うのか?この事態全てを予測して?
…何だこの生意気なクソガキ。
素直に怪我見せたら見せたでそんな嫌そうな顔すんならやるんじゃねぇよ、まぁ分からなくもねぇけどよ。
まぁクソガキと言っても……確か此奴も魔族。下手したら俺よりも長い年月を生きてる可能性はある。…見た目は完全に10歳未満だが。
創造神がまた呼び掛けると、今度は金髪を一つに結った長身の天使族の男が、何処からともなく現れた扉の中から出てきた。
…どうなってやがる、キイトってのは聞いた事ねぇぞ。つーか天使族だから一回見れば確実に分かるはずだが…此奴ら何処出身だ?
…さっき暴れ掛けた修道女と知り合いということは、キイトって奴は西国出身か。
そんなこんなを色々と考えていると、目の前のユウトが「よ〜し!」と元気な声を上げた。
そう言えばいつの間にか足が痛くない……と思って足を見ると、思わず目を見開いた。
傷は…あるが足がくっ付いてる?俺が考え事してる間に何したんだ此奴…
死んでねぇよまだ。てかテメェさっき魔法かけられそうになってたのに気づかなかったのかよ。天然どころじゃ済まされねぇぞ?
伊織は一言一言を震えながら、言葉を紡いだ。
さっきまで堂々と煽り散らかしてたのが嘘みたいに脅えてやがる、ざまぁみやがれ。
まぁ…下手したら俺達も殺される可能性はある。
そう思いながら、創造神の言葉を待った。
…西薗芹奈も?なんか増えてねぇか?
個人的な私怨じゃないだろうな…?
んじゃなければ、西薗が首領として活動しているフィクシオは、西国の各地から孤児を保護する有益団体だ。
それを身勝手な理由で無くすというのなら、流石に俺達だって抗議してやる。
俺と同じ事を思った南が聞いたら、キイトから予想外の答えが返ってきた。
そしてキイトはようやく、華代を連れて扉に入り…扉は消えた。
西薗の方を見ると、何事もないかのように涼しい顔をしていた。否定しない…って事はそうなのかよ。
クソババア以上に…最低な奴がいやがったとは。
孤児を保護じゃなくて殺害?そんな情報、今まで入ってきた覚えがないが?
嗚呼、ついに国家警察もお手上げらしく一般人共が入ってきやがった。
こっち来たら死ぬぞテメェら。
確かに、未だに創造神だと言われても信じられない自分はいる。
何かしら力を見せて欲しいと思う気持ちも分からなくはないが…命の危険を考えれば入ってこねぇだろ普通。
逃げろよ。国家警察は逃がせよ。
民衆の声は、そこで静まり返った。
一人の男に向かって、エイトが攻撃態勢で警棒を構えていたからだ。
エイトは詠唱を続ける。確かにまだエイトは何もしていなかった。ここに呼ばれたという事は…何か大事を起こす気だ。
エイトと呼ばれた男…記憶と言ったか。
つまり彼奴が、西国の国家警察に所属していた元警官…一ノ瀬瑛斗だろう。
まさか…俺達の、創造神に関する記憶を消すつもりか?
俺が思わず怒鳴ると、瑛斗は振り返り怪訝そうな顔で睨んだ。
何の事か分からず民衆の方を見ると、そこには誰もいなかった。
それどころか、国家警察もいない。うるさいマスコミもいない。
一瞬にしてこの公園は、まるで世界から、俺達だけが隔離されたような空間へと変化していた。
…なんかどっかで聞いた事ある名前だな、あなたって。
二代目創造神、あなた…もう少しで思い出せそうなんだが思い出せない。
とにかく世間に疎い俺でも知っているような、有名な人物だったはずだ…俺の記憶が間違ってるだけか?
瑛斗に対して、創造神が物議を醸し出そうとした瞬間。
瞬く間も無いほど俺の上を横切り、伊織の背中を踏み、修道女は創造神に剣を振りかぶっていた。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。