先輩の実家に来て数時間。
先輩は眠くなったらしく、
猫を抱きかかえたまま、
うたたねしていた。
…手の中にいる小さな黒猫。
名前はタピオカから来てんだろう
けど、まじでちっせぇな。
つか、白っぽいレモンっつー子と
黒猫のタピを間違えるとか、
どんだけ疲れてんだよ。
…慣れねえなあ本当に。
あの冷静沈着、頭脳明晰
って感じの先輩がこうだと…
天然すぎだろ、とか
冬眠でもしてんのか、とか
いじりたいはいじりてぇんだけど…
記憶が戻ったときにガチで
しばかれそうでどうも言いにくい。
静かになった一階の
リビングに床が軋む音が
やけに大きく響く。
恐らく、上にいた無陀野たちの
誰かの足音だ。思い出話は
終わったみたいだな。
…護衛とかいう名だけ。
周囲の警戒を頭の隅っこの方に
置きながら、先輩と猫たちの
仲良しこよし会は閉幕だ。
…来る途中、
とか、コソコソ言われて、
まあ確かに桃の襲撃とかシャレに
ならねぇって思ってだけど…
こんな離島、見つけられる
わけねぇわ。でも無陀野の
ことだ…なにに杞憂をしたんだか。
つか、思考が読みづらいのは
無陀野も一緒なんだけどな。
…でも、終わりは終わり。
無事になんともなく平和に
時間だけ進んでった。
脳内でほっとため息を
吐いたとき。
軽くなったと思った右肩に
暖かい重みを感じた。
先輩のあたかさと重力。
そして、ほんの少しある
" かつげ " という圧。
肩を組んだ時点でもう防げねぇ。
それに雪森先輩から来たんだ。
センセーよォ…
これはノーカンで頼むぜ。
主人が見知らぬ他人にかつがれて
心配になっている猫たちの間を
すり抜け、ソファを探した。
古民家をリフォームしたっぽい
家だったからか、柱がねぇ。
おかげで視界がクリアだ。
想像よりずっとスムーズに
ソファにたどり着けた。
すやすやと眠る自称雪女を
横目に、毛布代わりにと
自分の上着をかけた。
そこに、タイミングよく
あなたの下の名前のお姉さんが出てきた。
…この人が雪森先輩の姉で、
かなり歳が離れていることは
知識として知っている。
雪森先輩から聞いたし、
それは事実で真実なんだが…
顔が童顔すぎて年齢詐欺ってん
じゃねぇかって聞きたくなる。
まぁしねぇだろうけど。
…初対面の男になんつーこと
聞いてんだこのひと。
つか花魁坂も同じこと聞かれたな。
ひょっとして、こいつら
同類なのか…??
いやまぁ…でも先輩が
高嶺の花なのは事実だ。
好きっつー感情よりも
尊敬とか敬愛って感じの物が
俺含めみんなあると思う。
…だから、みんな呼ぶんだよな。
「雪夜叉」って。
『 好きだから 』
ビビった…
なんでほぼ巨人の無口男が
少女漫画みたいなセリフ言ってんだ
って、脳内パニックだったわ。
右にいつも通りの無陀野、
少しテンション低めな花魁坂。
予想通りの顔、立ち位置だ。
花魁坂と遥香さんの
トークが盛り上がったとき、
無陀野が何も言わず俺のところに来た。
今はローラースケート履いて
ないから、まだ目で追える。
無陀野のスマホには
メールが表示されていた。
無題、文言なし、一枚の
写真だけが添付されている。
送り主は練馬のあの人からだった。
…無陀野はわかりにくい。
けれども、真澄とか馨みたいに
わかりにくい嘘をつくとか
じゃなく、回りくどいだけなんだ。
無陀野…お前の先輩への
気遣いは記憶を取り戻すため
ってことだけじゃない。
その回りくどさ。
逆に気づきやすかったぜ。
数分前_______.
きみ、と呼ばれたおとなしい
1匹の黒猫。でも先輩の目線は
もっと遠くを見てるみたいだ。
…ソファで寝転がる主の
少し離れたところから見守る、
きみと呼ばれた大人の黒猫。
俺が例えで言った名前。
それがお前の名前になったんだ。
金色のキャッツアイに
お腹にある月みたいな紋様。
初めて会ったときも、
世話をしたときも変わらぬ
その唯一無二な特徴。
あ〜耐えた、危ねぇ。
これがもし、無陀野との
2人きりの部屋だったら
顔に出てた。
俺は優しくねぇ。
ここまでマイルドに言えたのが
奇跡だ。寝てる先輩とトークに
夢中な2人に気遣った結果のことだが。
お前の好きな効率のよさで
言うと5文字で言えるな。
「合理的配慮」っつーやつだよ。
表情筋を1ミリも動かず、
ただ同意だけしやがった…
ムカつくとかねぇのかよ、
まあだいぶオブラートに言った
けども。
つまんねぇな、相変わらず。
_______ぼんやりとしてた。
たぶん夢だった。もう覚えてない。
でもなんだか、すごく嫌な感じで
怖かったような、怒ってた
ような気もするの。
景色が走っていって、それが
休憩しているときに無線から
男の人の声が聞こえた…気がする。
そう、気がするだけだったんだけど…
この声で思い出した。
あぁ、私、京都に行く途中で
任務に行ったんだっけなって。
どこの場所の任務だったか
思い出そうと夢から出て、
目を開けたとき。
そこにはコラ画像なんじゃ
ないかと思う風景があった。
無陀野さんの頭の上に
あの大人しい黒猫が乗っていた。
標高190センチ住み猫、
今ここに爆誕________(?)













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。