次に先輩に会いに行ったのは、5日経った日のことだった。
翌日はなんだか恥ずかしくて会うのを躊躇ってしまい、その後の4日間は熱で寝込んでいて行けなかったのだ。
いつも通り部活を終えて帰ろうとすると、後ろから
と呼び止められた。
僕は心の中で(ほぼ毎日会ってたけど)と思いながら、こくりと頷いた。亮輔は実に嬉しそうに礼を言うと、僕の肩に手を回した。
いつもの場所に着くと、そこには寂しそうな顔をした佐伯先輩が立っていた。
2人で声を掛けると、先輩は表情を一変させて僕たちの方を見た。
そう言うと、先輩は、いつものように柵に腰掛けるよう、僕たちに勧めた。
最初に話を切り出したのは亮輔だ。
痛いところを突かれた。亮輔には、つい2日前まで毎日先輩と会っていたことを話していない。しかも、『零次くん』呼びされていることも、彼は知らないのだ。
先輩に来られなかった理由を説明するのも、亮輔に先輩とのことを話すのもこの短時間(しかも2人ともいる状況)では難しいと判断した僕は、亮輔のカバンを引っ張りながら先輩に
と一声掛けると、足早にその場を去った。
亮輔の家の近くに着くと、彼は不機嫌そうな顔をして僕の手を振り解いた。
大真面目な顔で聞かれ、危うく笑うところだった。
「後者に決まってる」と言おうとして口を閉じた。
本当に、先輩に呼ばれたから来ているだけなのだろうか? どこかに、『話したい』という自分の意思があるんじゃないだろうか?
考えれば考えるほど、答えは出ない。
お互いなんと声をかけたらいいか分からず、僕たちはどちらからともなく自宅へ向かって踏み出した。
僕はなぜ、毎日先輩に会いに行っているのだろう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。