今日で、佐伯先輩が亡くなって1週間が経った。
あまり人聞きはよくないと思うけど、節目だから今日もまた先輩に会いに行くことにした。
事故現場に着いた頃、時刻は午後7時半を過ぎていた。部活が長引いてしまったからだ。
自分がもうこの世にいないことを忘れているかのように、先輩は笑顔で僕を呼ぶ。
昨日と同じく2人で柵に寄りかかると、先輩はおかしそうに笑った。
お得意の膨れっ面を繰り出されると、つい笑ってしまった。案の定、先輩はその顔をすぐにやめる。馬鹿にされていると勘違いしたみたいだ。
空気を変えるためか、先輩は急にそう尋ねてきた。携帯などの時間がわかるものを持っていないのだろう。
その言葉は、僕が知っている先輩の口から出たものだと思えないほど悲しく聞こえた。笑顔で振る舞っているけれど、本当は寂しくてたまらないんだ。
心から謝罪すると、先輩は「らしくない」と言って笑った。つられて僕も笑う。
しばらくして2人とも笑いが収まると、僕は荷物を持ち上げて帰ろうとした。つい数分前まで重く感じていたカバンが、妙に軽く感じる。
相当決意がいることを話そうとしているのか、先輩は少し苦しげな顔をしている。
思ってもみなかったことを言われて一瞬呆然とする。しかし、返事はすぐに心に思い浮かんだ。
一言で答えると、先輩は安堵の表情を浮かべながら、
と答えた。
『美冬先輩』か。『零次くん』と呼ばれたこともない。でも、なんだか先輩との距離が縮まった気がして嬉しい。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。