第6話

3日目
20
2023/10/15 10:00
 今日で、佐伯先輩が亡くなって1週間が経った。
あまり人聞きはよくないと思うけど、節目だから今日もまた先輩に会いに行くことにした。



事故現場に着いた頃、時刻は午後7時半を過ぎていた。部活が長引いてしまったからだ。
零次
零次
せんぱーい?
 
美冬
美冬
あ、出雲くん! こっちこっち!
 自分がもうこの世にいないことを忘れているかのように、先輩は笑顔で僕を呼ぶ。
美冬
美冬
なんかさ、出雲くん常連みたいになっちゃってるね
 昨日と同じく2人で柵に寄りかかると、先輩はおかしそうに笑った。
零次
零次
誰のせいだと思ってるんですか
美冬
美冬
ごめんって。私だって状況よくわかってないんだから
 お得意の膨れっ面を繰り出されると、つい笑ってしまった。案の定、先輩はその顔をすぐにやめる。馬鹿にされていると勘違いしたみたいだ。
美冬
美冬
そういえば、私って、死んじゃってから今日で何日になる?
 空気を変えるためか、先輩は急にそう尋ねてきた。携帯などの時間がわかるものを持っていないのだろう。
零次
零次
今日でちょうど1週間ですね。……って、それ自分で言って悲しくないんですか
美冬
美冬
そりゃあ悲しいよ? 本当はこんなこと聞けないし
 その言葉は、僕が知っている先輩の口から出たものだと思えないほど悲しく聞こえた。笑顔で振る舞っているけれど、本当は寂しくてたまらないんだ。
零次
零次
そうですよね。変なこと言ってすみませんでした
 心から謝罪すると、先輩は「らしくない」と言って笑った。つられて僕も笑う。



しばらくして2人とも笑いが収まると、僕は荷物を持ち上げて帰ろうとした。つい数分前まで重く感じていたカバンが、妙に軽く感じる。
美冬
美冬
出雲くん
零次
零次
なんでしょう?
 相当決意がいることを話そうとしているのか、先輩は少し苦しげな顔をしている。
美冬
美冬
……零次くんって、呼んでもいいかな?
 思ってもみなかったことを言われて一瞬呆然とする。しかし、返事はすぐに心に思い浮かんだ。
零次
零次
いいですよ
 一言で答えると、先輩は安堵の表情を浮かべながら、
美冬
美冬
じゃあ、私のことは美冬先輩、って呼んでね!
 と答えた。

『美冬先輩』か。『零次くん』と呼ばれたこともない。でも、なんだか先輩との距離が縮まった気がして嬉しい。

プリ小説オーディオドラマ