私の薬指をじっと見つめて、母は真剣な顔で言った。
ギロリと母に睨まれた父は小さく
肩をすくめて黙り込んだ。
どうやら父は母には特別弱いらしい。
母は小さく微笑んだ。
母は優しく私の薬指に触れた。
そこには小さな薔薇のようなシルシが
浮かび上がっている。
それは消えることなく、
更に色が濃くなったような気がする。
ふと思い出した。
吸血鬼の学校へ潜入した時、
ヨルの薬指にも確かに私と同じ薔薇のシルシがあった。
路地で見かけた日から、彼は一切姿を現さなくなった。
きっと私のことなんて忘れてしまっているだろう。
そう考えるだけで胸がツキンと痛んだ。
幼い頃、確かに私はヨルに
「指輪」のお返しとして薬指に甘噛みされた。
それがまさか番の契約だったの?
でも、シルシが現れたのはつい最近で……。
念を押すように母がそう言った。
じゃあ、もしかしてヨルは私を…?
吸血鬼の学校で、
ヨルは他の人間の血を美味しそうに飲んでいた。
でも指には確かに薔薇のシルシがあって
目にはクマも──。
もしかしてあの日、
ヨルは血を飲んだふりをしていたの?
演技をして、わざと私を突き放そうとした…?
どうして?
何か重要な意味があるの?
制止する父の声を無視して、私は病室を飛び出した。
私は走った。
夕暮れの街を走り抜け、
人間の区域から少し外れた吸血鬼の学校へと。
息を切らせ走った先には
西洋風の豪華な校舎がそびえ立っている。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。