第28話

運命の番
3,991
2022/07/18 05:13


私の薬指をじっと見つめて、母は真剣な顔で言った。
みくるには好きな人がいるのね?
そしてそれは吸血鬼の男の子でしょう?
佐藤みくる
佐藤みくる
ど、どうしてわかったの!?
何だと!?
本当なのかみくる!
ちょっと
あなたは黙ってて!
う、でも…


ギロリと母に睨まれた父は小さく
肩をすくめて黙り込んだ。

どうやら父は母には特別弱いらしい。
私はね、あなたたちと暮らすために
吸血鬼と人間に関する
色んな文献を読み漁ったの
そしてとある文献にたどり着いた
そこには“運命の番”について
書かれてあったわ
佐藤みくる
佐藤みくる
運命の…つがい?
人間と吸血鬼の間にしか成り立たない
特別な関係のことよ


母は小さく微笑んだ。
“運命の番”。その文字どおり
運命の2人がとある契約を交わすと
2人は一生離れられなくなってしまうの
みくるにはそのシルシがあるわ
佐藤みくる
佐藤みくる
え!?

母は優しく私の薬指に触れた。

そこには小さな薔薇のようなシルシが
浮かび上がっている。

それは消えることなく、
更に色が濃くなったような気がする。
もし、このシルシが相手の子にもあるなら
もうあなたたちは離れられないわ
佐藤みくる
佐藤みくる
……っ!
そういえば!

ふと思い出した。

吸血鬼の学校へ潜入した時、
ヨルの薬指にも確かに私と同じ薔薇のシルシがあった。
佐藤みくる
佐藤みくる
でも、私とヨルはもう…

路地で見かけた日から、彼は一切姿を現さなくなった。
きっと私のことなんて忘れてしまっているだろう。


そう考えるだけで胸がツキンと痛んだ。

相手の子、ヨルくんって言うのね
シルシが消えていないなら
あなたたちは両想いなのよ
佐藤みくる
佐藤みくる
で、でも!
よく聞いて、みくる!
ただ運命の2人ってだけじゃ意味ないの
“番の契約”が大事なのよ
佐藤みくる
佐藤みくる
契約?
でも私たち契約なんてしてないよ
どうかしら?
番の契約はね「愛する気持ち」を持って
吸血鬼が相手の薬指を噛むことで
初めて成立するのよ
佐藤みくる
佐藤みくる
薬指を噛む…


幼い頃、確かに私はヨルに
「指輪」のお返しとして薬指に甘噛みされた。

それがまさか番の契約だったの?

でも、シルシが現れたのはつい最近で……。
大事なのは「愛する気持ち」よ
お互いが想い合っていないと
シルシは現れないはずだもの

念を押すように母がそう言った。

じゃあ、もしかしてヨルは私を…?
そうそう、あと契約を交わすと
吸血鬼はその相手の血しか
受け付けなくなってしまうの
佐藤みくる
佐藤みくる
あ…じゃあヨルが
人間アレルギーだったのって…
心当たりがあるみたいね?
佐藤みくる
佐藤みくる
それならヨルは
私以外の人間の血は
飲めないってことだよね?
でも…私見ちゃったよ
他の人の血を飲んでるところ…


吸血鬼の学校で、
ヨルは他の人間の血を美味しそうに飲んでいた。

でも指には確かに薔薇のシルシがあって
目にはクマも​──。
佐藤みくる
佐藤みくる
(クマ…!)
もしかしてあの日、
ヨルは血を飲んだふりをしていたの?

演技をして、わざと私を突き放そうとした…?

どうして?
何か重要な意味があるの?
佐藤みくる
佐藤みくる
ごめん、お母さん
私行かなきゃ!
ふふ…
行ってらっしゃい
お、おい!
待てみくる!!

制止する父の声を無視して、私は病室を飛び出した。
佐藤みくる
佐藤みくる
(行かなきゃ!!ヨルのところに!)
行かせてあげて
きっとあの子にしかできないわ
あの子の愛が世界を
変えるかもしれないしね…
どういうことだ?
ふふ…こっちの話よ







私は走った。

夕暮れの街を走り抜け、
人間の区域から少し外れた吸血鬼の学校へと。


息を切らせ走った先には
西洋風の豪華な校舎がそびえ立っている。
エサの女
エサの女
ちょっと待ちなさい
佐藤みくる
佐藤みくる
えっ…
エサの女
エサの女
こんなところまで来て
また何をやらかすつもりなの?
佐藤みくる
佐藤みくる
ニーナさん…





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