研修が始まったとき
獪岳は違和感に気づく。
気のせいかと思った。だが、
次の日には手帳のページが何枚か抜けていることに気づき、
そのまた次の日には、名札の裏に謎の香りがついていることに気づいた。
それは全部、あなたの仕業だった。
ボールペン は同型同色の別物、軽くして「持ちやすく加工」
手帳 は真夏が前日、こっそり盗み写した(個人記録分析のため)
香り は自分の使っている柔軟剤を名札に仕込む。「匂いの記憶」を刷り込むため
気づかれない
でも確実に、彼の五感に「私」を残していく。
それが、乙女の作戦
彼のパソコン、ログインの遅さに悩んでいた
ランチの希望が“中華”とつぶやいた
質問をしたらすぐに返ってくる
どれも、偶然じゃない。
全部、全部、“彼女の手のひらの上“
研修最終日、打ち上げの席。
あなたはさりげなく隣に座り、こう言った。
獪岳は、少し目を細めて、
だって、あなたは知らない。
「初めて会った」のは今日じゃない。
ずっと前から、私は貴方を見ていた。
3番ホームで、
部屋の窓から、
制服の背中越しに、
そして、今日もこのスーツの袖越しに。
「偶然」なんて、信じない。
すべては、必然。
貴方に出会うために、私は神にさえなれる。
明日から、あなたは社員。
そして私は、上司。
でもね、その肩書の奥にあるのは、
「あなたを一生見つめ続ける権利」
──私が、なによりも欲しかったもの♡












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!