そして彼は私のことなんて、すぐ忘れた。
幼稚園に通い出すと、私の姿を見ても「おねえさん」とすら呼ばなくなった。
中学、高校……彼はどんどん大人になって
私は東大に行き、夢を叶え、会社を作った。
せっかく金が手に入ったのでいろいろなことをした。
でもどれも長続きしない
いまだに続いているのは彼のSNS漁りだけ
でもそんなつまらない日々に転機が来たんだ
うちの会社は社長の私が面接に参加するスタイル
ちなみにもう履歴書で部下に選別されているためこれが最終面接
扉を開けそこに立っていたのは獪岳くんだった。
叫びたい気持ちを必死で抑え
そのまま説明し始めた冷静で、礼儀正しく、プロフェッショナルに
私の声は、完璧な社会人のそれ。
その言葉が出た瞬間、私の心臓は飛び跳ねた。
だけど、表情は変えない。
嘘。
それは、あの日——引っ越しの日の、貴方の最初の言葉だった。
でも、ここで思い出されては困る。
私の計画が全て台無しになる
獪岳は軽く頭を下げた。
その仕草、ああ、変わってない。
変わったのは、私の方。
もっと、もっと賢く、もっと、もっと綺麗に、
貴方を捕まえられるようになったのよ。
面接は淡々と進む。
獪岳は、昔と変わらず野心家だった。
肩で空気を切るように話す。自分を大きく見せる癖。
自信と劣等感がごちゃまぜになった眼差し。
そして、どこか私を見透かすような目。
あぁ。まずい
このままではバレてしまう。
乙女の正体が。
だから私は、微笑む。
完璧な社長として、完璧な他人として。
帰宅した私は、いつもの部屋に戻る。
壁一面の資料、写真、記録、録音、映像。
貴方の成長の全て。
私だけが持っている、貴方の人生の全記録。
乙女である私は、
この愛を"ストーキング"なんて言葉で片づけたくない。
これは信仰。これは守護。
これは未来を迎えに行く準備。
カチカチ、とキーボードを打つ音。
面接で使った履歴書のスキャンを取り出す。
指でなぞる、名前。生年月日。志望動機。
画面にそっとキスをして、
私は静かに電気を消した。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!