第2話

配信者 続
97
2026/02/01 14:44 更新
続きです。 










あれからというもの、Xでは大盛り上がりで
少しの期間配信をやめよう。と若井くんとお話して、約1ヶ月していない。


「さすがにそろそろ慣れたでしょ?
 この会社にも。」

『.........まだですね、笑』

前々から思っていたけど、この人僕から教わりたいだけじゃないか??
「そろそろ慣れろよっと、」
『いでっ、笑笑』
軽くファイルで頭を叩けばへにゃっと笑いながら
頭をさすっている。

でも結局慣れないとか言って仕事は完璧だからなぁ
実績があるってこともあって流石だなぁ。


























時間を見れば定時より少し遅れていた。
まだ終わっていないから少し焦りすら感じる。

『先輩、それ少しやりますよ。』
横から覗き込んできた顔はいつも見ている若井くん。
少し驚いたけどすぐに返事をする。

「ううん、平気だよ。
 若井くんはもう帰りな?」
そう言うと、ムスッとした顔で言ってくる。

『俺を頼ってくださいよ。』
いくら仕事ができるとはいえ、なんとなく後輩には
仕事関係は頼みたくない。

若井くんだからとかじゃなくてね。






それから数分経っても、俺に仕事を分けてくれるまで帰らないと意地っ張り。

外を見れば真っ暗で、会社の中にもあまり人はいなかった。
お願いしてくる若井くんの顔を見ては渋々了承した。
「...これ、やってくれる?」
嬉しそうにこっちを見つめて、僕の隣のデスクに移動する。
少し経ったら隣でいつも通りのキーボードの音が聞こえてくる。
〈お疲れ様です。〉
「ん、お疲れ様ー」
少しげっそりした顔をしながら帰るのは会社の同僚。
最近はずっと残業ばかりだったらしい。
『.........出来ましたけど。』
あれだけあった仕事をもう終わらせているなんて。
下手すりゃ僕より仕事ができるんじゃないか
「ありがと、...もう帰りな?笑」
『.........俺先輩の家で久しぶりに配信したい。』
突然のことにびっくりした。
配信をしたいだなんて若井くんから言われるとは思ってなかった。
でもたしかに最近やっていないから結構ありだよなぁ
「...そうだね、久しぶりにやろっか。」
顔から嬉しいという感情が滲み出ている若井くんを
視界の中に置いといて、パソコンと睨めっこ。






やっと終わったと思ったら意外と遅くなっていた。
隣を見れば眠たそうに首をカクカクしている。
起こすのも申し訳ないなと思いながらも起こす。

「若井くん、お疲れ様
 終わったけど今日はもう帰る?」
『んゃ.......先輩の家、ぃく』
初めて僕は若井くんを可愛いと思った。
猫のような、性格は犬のような。





帰っている間に若井くんはすっかりと目を覚ましたようで。
家に着くと嬉しそうに冷蔵庫を開けたり好き勝手に
荒らされる。
『やっぱり先輩の家いい匂いー、』
「はやく、こっちおいで?」
隣をポンポンと叩けば犬のように走ってこっちに座ってくる。
配信をスタートすればコメントは一気に流れていく。

【え?どうしたの急に!!!】
【久しぶり😭】
「久しぶりぃ、」
一気に5万人が集まる。
「今日もね、笑」
『スペシャルゲストがいまーす。』
【出た!!滉斗さん!!】
もう勝手にファンの中でも "滉斗さん" が
配信者の1人みたいになっている。

まぁ僕だけのなんだけどさ。
【付き合いましたー??】
【さすがにカップルだろ】
「はい、答えて」
難しい質問は大体若井くんにお願いしている。
だって僕が言ったらガチみたいになるし。
僕のファンが怒っちゃう。
『ん、そろそろかなぁ??笑笑』
ほら、一気にコメントの流れが早くなる。
ゆったりした配信もなんか今日はゆったり出来ない。
「なんだそれ、ゴクッ、」
『何飲んでんのそれ、』
「なんか冷蔵庫にあったやつ、飲む?」
『いっただきまーす。』
「ぁ、僕のじゃんそれ。」
僕は冷蔵庫にある新しいやつを飲ませようとしたのに勝手に僕の方を飲んできた。
もうここまで仲良くなってしまったら間接キスとか
気にしてられない。
【え、間接キス????】
【腐腐】
「みんなも考えが学生なのねぇ、笑」
「あ、配信してなかった理由ね、話そうとしてた
 あのね、普通にXとかで取り上げられてたから
 一旦収めようって、ね笑」
『まぁこれもどうせ上がるんじゃないの?』














あれからまた数日経ち、若井行きつけの居酒屋に行く
『っはぁー、ねぇ、』
「ん?」
ビールを飲める若井はビールを片手に話しかけてくる
『いつになったら付き合ってくれんの
 俺ずっと待ってんだけど?』
顔をほんのり赤くした若井が僕を見つめてくる。
こんな所で濁しは効かない。
「若井が、立派な会社員になれたら。
 その時はまた考えよう。」
『ふへ、なにそれ
 俺もう立派な会社員だよ』
お酒に強いはずの若井がここまで酔うことはほとんど無い。
これを話すためにお酒を沢山入れて本当のことを話してくれた。
「んーん、若井はまだ立派じゃないよ。
 もう帰ろう?」
『......どうしても、だめですか?』
まだ諦めきれないのか、帰る気もなく動きそうにもない。ただ僕を見つめてくるだけ。
「.........僕は、若井を幸せにできる自信が無い。」
『俺なら、絶対幸せにさせます。』
そんなキザなセリフでさえも、今は胸がドキッとする
当たり前のようで、当たり前じゃないような。
「........僕は、決して若井を振りたいわけでも
 嫌いって訳でもない。
 でも、今の僕らが付き合ったら、幸せになんか」
『......俺、どうしても先輩がいいです。』
嫌いでもないし、なんなら好き。
でも僕たちが付き合っても結果としては何も無い。

幸せも、いつかは薄れて、色褪せていく。
2人分の愛を僕だけで抱えるのも、若井だけで抱えるのも、最後はどっちかが抱えて終わるのは見えている
別れが来るなら僕は付き合いたくない。










「おはよう、若井」
『......おはようございます』
もう、目も合わせてくれなくなった。僕のような最低で駄目な人に捕まって欲しくなかったから。

もし、配信をやっていなかったら、僕たちは付き合えていたのかな。













『.........ぁの、』
「...なぁに、」
『昨日は、ごめんなさい。
 つい、感情が高まって、』
腫れぼったい目を隠すように下を向く若井。
昨日解散せず僕の家に連れていってたら、泣かせることはなかっただろうな。
「んーん、僕こそごめんね。
 もう少し、お互いを分かったら、だね笑」
『...!!
 はいっ、笑』
嬉しそうにこっちを見つめてくる若井には敵わない。
「目、腫れてるね。
 泣かせるつもりなんてなかったんだけどなぁ笑」
そう言うと、恥ずかしそうに目を隠してこう言う。

『優しくされたら悲しいです、笑』













新しい春が来て、ピンクの花びらが目の前に広がる。
子供は、走り回って花弁を集めている。

春の匂い、春の景色、新しい出会いが、ここに全部
詰まっている。
『うーわ、綺麗ですね、笑笑』
「なんで僕が若井とお花見を...笑」
『いいじゃん、せっかくなんだし』
にこっと笑う若井は、優しく僕の手を取る。
「......若井。
 僕、考えたよ。」
同じペースで歩いていた若井がスっと立ち止まる。

『......うん、聞かせて。』
「僕、若井が好き。
 待たせてごめんね。」
目をキラッと輝かせて、僕のことをそっと抱きしめる

『ぅん、...俺も、好きだよ。』
2人の隙間がないように。
強く、優しく抱きしめる。

「早く、聞かせてよ。あの言葉。」
サッと離れた若井は涙ぐんで僕を見つめながら、

『好きです。付き合ってください。』
「はい、よろこんで、笑」
目の前に出された手を強く握る。
今、2人の間に大きな綺麗な花が咲いた。




















「早く起きてー!!
 もう寝坊するよ!!!!!」
『あとちょっと....』

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