チリン。
「お兄ちゃんこれ上げる」
折りたたまれた折り紙だ。
「ここでは開けないでね。お祭りの日にこれ開けて」
ハナちゃんはそう言い残すと荷物を抱えて僕の脇を抜けていった。その横顔が先生の苦い顔に似ていた。
「いらっしゃい」
「いつものください」
いつものといえることが誇らしい。僕は席に着く。ハナちゃんは帰ってしまったようだ。
目をつぶった。このほうがいろいろ考えられる。最近はさぼることなく学校に行っているからここに来る時間が遅くなる。それでもハナちゃんと会うということはハナちゃんも学校に行っているのだろう。僕の安直な推理などどうでもいいのだ。ただハナちゃんが心配なだけだ。思考が縦横無尽に頭の中を駆け巡る。少し疲れてしまったようだ。僕はいつの間にか寝てしまっていた。暑い。いつも聞こえる風鈴の音が聞こえない。やけに体の横半分に固い感触がある。暑い。僕はアスファルトに寝ころがっていた。店が消えていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。