第12話

12 名前の距離
1
2026/03/28 02:00 更新
休日の午後。

ショッピングモールのゲームセンター。

りりは何気なく入って───

すぐ見つけた。
葛西りり
……あ
り(あれって…)


私服姿の由宇。

黒いパーカーにラフなパンツ。


制服の時より、少しだけ大人っぽい。
葛西りり
……由宇(ゆう)くん
ぽつりと、無意識にこぼれる。
新島由宇
……え
反応して振り向く。


目が合う。
新島由宇
……葛西(かさい)さん
葛西りり
っ
り(やば、聞かれた…)
一瞬気まずい空気。


ゆ(今、由宇くんって…)


でも、少しだけ表情が柔らぐ。
新島由宇
……別に
葛西りり
え
新島由宇
由宇でいいよ
葛西りり
……
一瞬、固まる。
新島由宇
その方が自然だろ
少しだけ笑って、優しく言う
葛西りり
……うん
り(今、名前で呼んでいいって…)


り(なんか、特別な感じ…)
新島由宇
せっかくだし、なんかやるか
葛西りり
うん
クレーンゲーム、音ゲー。

笑いながら遊ぶ時間。
葛西りり
ねえみて!これかわいい!
新島由宇
また無理そうなの狙ってるだろ
葛西りり
いけるもん!
結局取れなくて──

由宇があっさり取る。
葛西りり
すご!
新島由宇
はい
葛西りり
ありがと、由宇くん
新島由宇
……
一瞬どけ止まる。
新島由宇
……いいな、それ
葛西りり
え?
新島由宇
呼び方
り(やばい今の…)


り(めっちゃ恥ずかしい…)


少しだけ歩いたあと。
新島由宇
アイス、食うか
葛西りり
え
新島由宇
奢る
葛西りり
いいの!?
り(優しすぎでは…!?)
ベンチに座って、アイスを食べる。
葛西りり
おいしい
新島由宇
それ選んで正解だな
りりはふと顔をあげる。
葛西りり
……あ
り(プリクラある…)
葛西りり
ねえ、由宇くん
新島由宇
?
葛西りり
プリクラ、撮らない?
新島由宇
……
少しだけ驚いた顔。
新島由宇
……いいけど
プリ機の中。

狭い空間。

私服の2人。



り(近い…やばい…)
1枚、2枚目。 

少しづつ慣れてきて、自然に笑える。
葛西りり
なんか楽しいね
新島由宇
だな
そして、最後の1枚。



「3、2、1───」



その瞬間。

由宇が、りりの顎にそっと手を添える。
葛西りり
え───
くいっと自分の方へ向ける。


距離が、一気に近づく。


り(え、ちょっと待って…)



触れたのか分からないくらいの───


一瞬のキス。




「パシャッ」
葛西りり
……
完全に固まる。
新島由宇
……
少しだけ顔を逸らす。
り(今の…え、え……!?)
新島由宇
……落書き、行くぞ
ちょっとだけ照れた声。
葛西りり
う、うん…
り(絶対気のせいじゃないよね…!?)
プリ機の外。


でも、もう空気は変わってる。
葛西りり
……
り(なんでこんなにドキドキしてるの…)
新島由宇
……
ゆ(もう、戻れねえな)
"由宇くん"って呼んだ瞬間から。

2人の距離は、確実に変わり始めていた。

プリ小説オーディオドラマ