SEITO side
本来の生活に戻って、
数日が経った。
夕飯も、
好きな時間に好きなもんを食べてる。
誰に気ぃ使うこともない。
……はずやのに。
箸を動かしても、
口に運んでも、
半分くらい残したまま、
箸を置く。
ソファで寝落ちしてもええ。
ブランケットも、別に要らん。
……はずやった。
夜中、
目が覚める。
肩が、妙に寒い。
無意識に、
横に手を伸ばして——
何もない。
……あるわけない。
置いてへんやから。
冷蔵庫を開けて、
缶を一本取り出す。
プシュ、って音が、
この部屋ではやけに大きい。
グラスに注ぐ。
キッチンの棚に、
視線が落ちる。
——マグカップ。
それだけが、
まだ、そこにある。
気づいたら
あなたのマグカップにも、
酒を注いでた。
誰に言うでもなく。
ソファに座って、
二つの器を前に置く。
自分のを一口。
……何も変わらん
マグカップの方を見る。
でも、
目、逸らせへん。
誰もおらんのに。
ぽつり。
もちろん、
返事はない。
喉の奥が、少し詰まる。
そのまま、もう一口。
気を紛らすみたいに、
スマホを手に取る。
写真を一枚。
テーブルの上。
グラスと、ばら撒いたツマミ。
何気ない構図。
短い言葉を添えて、
深く考えずに、
ブログに投稿した。
——数分後。
通知。
ポップアップに映る、
コメントの一部。
ーーーーーーーーーーー
《マグカップ2つ?》
《誰か来てる?》
《これ、誰の?》
ーーーーーーーーーーー
一瞬で、
胸がひやっとする。
ほぼ同時に上がる、
別のブログ。
一気に動く、
コメント欄。
………は?
でも、
なんで?
写真を、
もう一度ちゃんと見る。
マグカップ。
あなたの『だった』やつが——
…完全に、写り込んでる。
スマホを伏せて、
深く、ソファに沈む。
部屋は静かで、
酒は減ってて、
隣には、もう誰もおらん。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!