第29話

崩れ落ちる、その時は
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2026/02/07 15:54 更新
TAKUTO   side


スマホが鳴ったのは、
夜もだいぶ深くなってからだった。



画面に出た名前見て、
一瞬だけ、胸の奥がざわっとする。



――セイト。


通話ボタン押す。
TAKUTO
はーい…
SEITO
『……たっくん』

声、低い。
張りもない。

…あ、これダメなやつだ。
SEITO
『……ごめん』

その一言で、全部わかった。
TAKUTO
…セイト?
TAKUTO
……今、時間ある?

少し間を置いてから、
できるだけ普通に言う。
TAKUTO
……あそぼ

SEITO
『……は?』
TAKUTO
いいよね?
TAKUTO
今から行くから。…鍵、開けといて
SEITO
『……来るん?』
TAKUTO
うん。

電話切る前、
小さく息を吸う音が聞こえた。



――やっぱり、来た。

セイトの家の前に着いたのは、
それから三十分程後。


インターホン押す前に、ドアが開いた。


……ひどい顔。


目の下、うっすら影できてるし、
髪もいつもより雑。


でも、俺の顔見た瞬間。


ほんの一瞬だけ、
肩の力が抜けたのが分かった。
TAKUTO
お邪魔しまーす

靴脱いで中入る。


部屋は綺麗。

…綺麗すぎるくらい。
SEITO
……なんか、飲む?
TAKUTO
ありがとー

ソファに並んで座る。

しばらく、無言。

テレビもつけない。

いつもなら、
どちらか痺れを切らして口を開くけど…



今日は負けない。



待ってるから。
セイトが自分で崩れてくれるのを。


しばらくして、
SEITO
……なぁ、たっくん
TAKUTO
ん?
SEITO
あんな…

言いかけて、止まる。
SEITO
謝りたい事、あんねん

SEITO
……ブログ
SEITO
……あれ、ごめん
TAKUTO
え?…いや、別に


一瞬、間が空く。

SEITO
それとな……
SEITO
もう一個、ある……

SEITO
……ツアー中の

声、震えてる。
SEITO
ホテルの部屋。たっくんと話してた時

俺は、何も言わない。


セイトは下を向いて、
拳を、ぎゅっと握ってる。

SEITO
……正直


言葉を探すみたいに、息を吸って。

SEITO
めっちゃ羨ましかった
SEITO
…たっくんのこと
TAKUTO
…え?

SEITO
ちゃんと我慢して
SEITO
ちゃんと大事にしてて
SEITO
想い合えてるのが

SEITO
ムカついてしもーた

TAKUTO
(…やっぱり)

いつもゆっくり話すセイトからは
想像つかないほどの勢い。

かと思えば
SEITO
…ごめん
SEITO
あの時だけやから

何かに怯えているように弱々しくなる声
TAKUTO
…うん

この返事が正しいのかわからないが、
セイトの眉が八の字になっていく。
SEITO
たっくん
SEITO
俺な…

一拍置いて。
SEITO
あなたちゃんの事、好きやねん


来た。

……でも、まだ。
SEITO
……あの日、あなたちゃん泣いててん
SEITO
ほっとかれへんやん
SEITO
求められてるって自惚れかもしれんけど
SEITO
… 抱くしかなかった


SEITO
……でも
SEITO
抱けた時点で……
SEITO
……いや
SEITO
その前から、やったんかもしれん

SEITO
あの時、気づけば…
SEITO
気づいてたら


言葉が、途中で落ちる。
SEITO
一線越えてから
SEITO
好きって分かってから…
SEITO
…もう、なんも分からんくなって
SEITO
全部が

SEITO
グチャグチャや



ほんと、全部がぐちゃぐちゃ


SEITO
俺、何様なんって
SEITO
何も出来ひんくせに…

声がかすれてきてる。
SEITO
そのくせに、たっくんには
“安心から始めろ”とか偉そうに



たまに混じって聞こえる喉の締まる音

SEITO
……俺、最低や

俯いたままのセイト。

俺は、すぐに言葉を返さなかった。

…返せなかった、の方が近い。


黙ったまま、
その顔を見てた。

目は、合わない。
唇だけ、強く噛んでる。


……こういう時の顔、知ってる。


“耐えてる顔“


しばらくして、
セイトが、恐る恐る顔を上げた。


そのタイミングで、やっと口を開く。
TAKUTO
いいんじゃない?
TAKUTO
……それも。

セイトが口を少し開けたまま固まってる。
TAKUTO
俺を羨ましいって思ったのも
TAKUTO
あなたさんを好きって教えてくれたのも

少しだけ、声を落とす。
TAKUTO
嬉しかったよ

SEITO
…でも

TAKUTO
壊れる時は

セイトの方見る。

真っ直ぐ。
TAKUTO
俺の前にしなよ
TAKUTO
俺は、絶対大丈夫だから

TAKUTO
(……大丈夫)

一瞬だけ、
あの声が、頭をよぎる。

飄々としてるくせに、
不思議と、背中を預けられた人。


……でも。

俺は、
引き上げる人じゃない。

だから

受け止める。

どんな形でも。

……絶対に。




しばらく、沈黙。

セイトがゆっくり息を吐く。
SEITO
……なぁ、たっくん
TAKUTO
ん?
SEITO
俺、どうしたらええ?

……やっと、
助けを求めてくれた。


俺は、即答しない。

少し間違えたら彼が崩れてしまいそうで…
TAKUTO
……背中は押す
TAKUTO
でも

一度だけ小さく息を整える。

ここで言葉を間違えたら、
セイトは本当に壊れる。
TAKUTO
逃げるのは、違う

TAKUTO
俺も信じるから
TAKUTO
セイトが信じたい方を

セイトは目を逸さなかった。

それだけで、少し安心できた。
SEITO
……わかった
TAKUTO
…じゃあ、今日は
TAKUTO
ちゃんと寝な?
TAKUTO
で、明日もう一回考えよ


セイトの雰囲気が少し緩まった。

SEITO
……たっくん
TAKUTO
SEITO
来てくれて、ありがとう
TAKUTO
…言うとおもった笑

座ったままのセイトを立ち上がらせる。

大きく見えた。

背丈じゃなくて、存在が。

もう大丈夫。
セイトは強いから。


荷物をまとめた、その時。
SEITO
……いやや
TAKUTO
は?
SEITO
今、ひとりは…嫌や。

少し間を置いて。
SEITO
一人になったら、また逃げそうや



その言葉に、動きが止まる。


TAKUTO
……甘えないの
SEITO
お願いたっくん、泊まって行ってや〜
TAKUTO
やだ
SEITO
なんで〜。寂しい〜
TAKUTO
嫌だってば…

……って言いながら、

気づいたら、ソファに戻ってた。

いつの間にか、
自分の上着も脱いでた。




朝。

目、覚ましたら、
見慣れた天井。

隣で半分口が開いたまま
安心しきった寝顔の大男。



……はぁ。



結局、
一緒に朝からセイトの家から出勤した俺。
TAKUTO
(やっぱり、セイトにも甘いのかも)

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