第3話

【切甘】四季刻歌
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2023/12/28 16:58 更新



現世任務に出ている私。景色も雰囲気も随分変わったと思う。



「見回りも終わったし帰ろっかな。」



尸魂界に戻ろうとアスファルトに映る自分の影、そしてすぐ横にぬっと影ができた。

ものすごく見覚えがあって、胸が熱くなる。振り向くとそこには知らない人間がただ歩いてるだけ。私に気づきもしない。それもそうかと、自分の影を見つめた。



「さっきの影、似てたな。」



昔のことが思わず蘇ってしまった。




「懐かしい、な。」














尸魂界に戻ると乱菊さんとたまたま出くわして、声をかけられた。けどなんかいつもと違って急いでる。何かあったのかな。



「あ、あなたの名前おかえりっ。」

「ただいま乱菊さん。何を急いでるの?」

「新しい隊員が来るのよ。挨拶に行きましょっ。」



なんだそんなこと。正直何度も私は新入りを腐るほど見てきた。乱菊さんよりも。けど乱菊さんはいつも絡みに行く。新人に。これでもかと。

それに毎度巻き込まれるのが私だった。



「乱菊さん、私厠に行くから先に行ってて。」



えー?なんてあからさまにガッカリしたのもつかの間、あっという間にいなくなった。本当によく分からない人。

何となく行く気になれず、庭の大きい木の下で歌っていたら誰かが視界に入ってきた。


「は?」

「あ、。」



その姿を見て私は咄嗟に詰め寄り初対面であろうこの人の腕を掴んでいて気づけば訝しげに私を見ていた。慌てて謝りながら手を離す。

だって、見覚えがある、あり過ぎる。



「あなた、・・・新しい隊士?」

「はい、日番谷冬獅郎です。」



名前は違えど、この目の前の人物に胸が締め付けられる。だって、


やっと逢えた。












「雑木林の方角は確認しましたっ。」



それこそ私がまだ死神になりたてで、初めての現世任務に行った時だった。私は今よりも小さく、誰よりも若く、誰よりも弱かった。



「各自速やかに尸魂界に戻るように。寄り道は程々に。」



了解とみんなが返事をして大体の隊士はすぐに戻って行った。私も戻ろう、この村は大丈夫そうだし。だけどさっき見たはずの雑木林から微かな虚の気配を感じた気がしてそこに向かう。見つけたのは低級のもの。勝手に討伐していいのかな?どうなんだろ。

そんな時男の子が怪我をして倒れ込んでいる。恐らく虚にやられていたのだろう。

これはもう倒しちゃっていいよね。
意外にも直ぐに倒せて、初めてひとりでやれたと喜んだ。横目で倒れながらも逃げようとしてた子供を見てみる。目が合ってるように見えるけど、きっとたまたま。見えていないだろうし、だからこそ治療なんてものもできない。

あれ、やっぱり目、合ってる?

確認のために斬魄刀をその人に向ければ、途端に警戒してきた。



「きみ、死んでる?それとも見えてるだけ?」

「死んでねえよ。お前なんなんだ?さっきの化け物、。」

「そんなの気にすることないよ。」




これが彼と私の出会いだった。



「痛った・・・っ。」

「我慢してください。」



切り裂かれた足を治癒する。この能力だけは役に立つな。四番隊希望すればよかった。



「はい治った。でもこの草履は鼻緒が切れて使い物になりそうにないね。」

「作り直すから別に構わねえ。」



一言お礼を言うと少年は立ち上がった。こんな子がどうしてこんな所にいたんだろう。そうは思ったものの、事情も人それぞれ。あまり気にしないようにしよう。

私も帰るかなと天空を見据えた。



「早く村に戻って。夜になればもっと危ないから。」

「お前は帰らないのか?」

「帰るわよ。きみと違うところに。」



彼の額に指先を添えた。・・・意外、抵抗されると思ったのに。これから私はこの子の私との記憶を消そうとしてる。深く息をはき、実行しようとした時だった。



「お前、名前は?」



彼の質問に今からしようとしてる事を思わず止めた。


「知らなくていいよ。」



どうせ消すんだし。心の中で気だるく呟く。だが、少年は私を真っ直ぐに見ている。

そうよ、どうせ消すんだから、。



「あなたの名字・・・あなたの名前。」

「上の名前があるんだな。俺は、───。」



そう名前を交わした。交わしただけなのに、記憶を消すのが惜しくなってしまって手を下ろしてしまう。

自分の意思の弱さに嫌気がさす。
まあいいか、記憶を消すなんて私の力なら容易いし、いつか消せばいい。



「あなたの名前は、。」

「帰り道は気をつけてね。それじゃ。」




彼を残して瞬歩でその場を去った。というより、逃げた。馴れ合わない方がいいはず。素性を知られても困るし。

そうして尸魂界へと帰った。



一ヶ月後、自分達の現世での担当地区の見回りとして出向く事になった。私の担当はやっぱり雑木林らしい。枯葉を潰す乾いた音を立てながら奥へと進む。虚も居なければ気配もない。あとは集合場所に戻るだけ。



「あなたの名前?」

「え。」



横から声がして見てみるとあの時の銀髪の少年。
今日こそ記憶を消してやろうかとまで思ってしまう。



「久しいな。」

「申し訳ないけど、今は話しかけないで。誰が見てるか分からない。」

「・・見られたらいけねえのか?」

「きみが記憶消されてもいいなら構わないけど。」



それを聞いた時、少年は黙り込んだ。
にしても私も私だ。これだと覚えてて欲しいと言っているようなもんじゃないか。



「やっぱり消す。」

「は?」

「きみが持ってる私の記憶、全部消すっ。その方が絶対にいい!」



じゃなきゃ誰かに話されでもしたら、私も懲罰くらうわけで。
少し強引だけど少年の額に指先を添えようとすると、思い切り掴まれて阻止された。この少年・・、死神を掴むことが出来るなんて。余程力があるらしかった。



「やめろ、俺はお前を忘れたくなんかねぇ。」

「──っ。」



まただ。またその目だ。その時確信した。私はその目に完全に魅了されてしまったのだと。

それからというもの、私達は雑木林で密かに会うようになっていた。冬がやって来て、春が過ぎ、夏が来る。それを何回か繰り返した。



「来たな。」

「さっきあっちの方で虚が居たから手こずって。みんなとは解散したからもう大丈夫。」



彼の前で立ち止まり、二ヶ月ぶりでつい照れてしまってへらりと笑った。その時頭に手を乗せられ、ピクっと反応して固まる。それと同時に顔が熱い。



「あなたの名前はあの頃のままだな。」

「きみは、随分背が伸びて大人っぽくなったね。」



そう、私達の時間の刻み方は違いすぎた。今では私の身長をとうに超えて、少年とは言えない見た目だ。



「急に触れてこられると驚いちゃうよ。」

「すまん。ただ、。」



言葉を止めた彼を不思議に思い見上げると、彼は微笑んでいて、私はどうしようもないくらいに時めいた。



「お前に、触れていたい。」



そう言葉を続けて私を自身の胸の中へ閉じ込める。
初めてだった。殿方に抱きしめられるなんて。初めてだった。こんなに抱擁されることが嬉しいなんて。



「きみ、温かいね。」

「そうかよ。あなたの名前、俺はお前を一人にしないからな。」



何も言えずに彼の胸に顔を埋めた。そんな時だった。急に大雨が降ってきたのだ。
彼は冷静に何処かへ誘導してくれてたどり着いた場所は小さな神社。

離れの小屋に勝手に入っていくもんだからそんな彼を引き止める。




「誰もいないの?大丈夫?」

「平気だ。住職だってこんな大雨でここまで様子は見にこないだろ。」




そう言いながらザーという音と共に景色を眺めていた。私はこんな大雨だろうがお構い無しに尸魂界に帰れるけど、彼を優先した。



「随分濡れたな。」

「うん、お互い風邪ひくかもね。」



しばらくお互い無言で居たが、私は囁くように歌った。それを聞いていた彼はふっと笑う。



「何の歌だ?」

「即興ですのでお気になさらず。」

「はっ、俺が死んだら記憶もなくなってそっちに行くんだな。」

「ならこの下手な歌を歌い続けて私を思い出させてあげる。」



そう笑って見せたら頬に手を添えられ見つめられた。こんなの言葉なんて出てこないし、自然と目を閉じる。

その後はもうあっという間だった。痛いだの、甘いだの、切ないだの。色んな話は尸魂界で聞いたことはあったけど、実際は、無性に愛しかった。目の前の彼が、とことん欲しかった。

ただ、──それだけだった。

雨も小降りになってきた頃には二人抱き合って外をまた眺めた。



「痛くなかったか?」

「全然平気。」



彼の腕の中で幸せを感じていた。時が止まればいいとさえ思えた。

すると、遠くから探しているのか彼の名を呼ぶ女性の声がした。誰なんだろうと彼の顔を見上げると、なんとも言えない険しい顔をしている。

ああ、分かってしまったかもしれない。けれど、そうじゃないかもしれない。




「妻だ・・・。」

「──。」




それを聞いた途端、体が震え言葉を無くす。




「一ヶ月前に縁談の話があったんだ。夫婦になったのはつい二週間前だ。」



絶望に襲われている私から離れて服を着ていく彼。
小降りの雨の音がえらく耳に響く。



「ただ、俺が望んだことじゃねえ。それだけは信じてくれ。俺はあなたの名前、お前が、。」

「やめてっ・・・。」



たまらず涙があふれる。彼は悪くない、悪いのは住む世界が違うのに私がここにいること。彼にもどうしようも出来ないこと。

分かってたはずだったのに。



「もう、きみには関われないっ・・。」

「あなたの名前、。」

「早く行って。」




彼は私を置いて遠くに見える傘をさした女性の方へと向かった。どれだけあの女性の居場所を羨んでも、どうしようもない。まだ濡れている死覇装を着て外に出る。



「おなごや。」

「・・・。」



恐らく住職であろう人が私に話しかける。



「見えてるんですか。」

「分かっておやり。彼はこんな時代に生まれしきたりには逆らえん。」




それだけを言うと、経内の方へ戻って行った。尸魂界に戻ると三席が待ち構えていて、怒りで霊圧が重くのしかかってくる。



「お前、何をしていた。」

「現世の見回りを、。」

「見回りだけじゃないだろ。現世の人間と関わっただけならまだしも、恋仲になるなんて。」



そうだ、これは私への罰だ。あの時、少年だった彼の記憶を消していればこんな事にはならなかった。
なんということなの。浅はか過ぎた私は、彼も苦しめていたんだ。共に時を過ごせずに。


それから現世での任務が許されずに三十年が経って十番隊へ異動となった。少しは現世で言う二十歳そこそこな外見だろう。それでも私の心の時間は未だにあの時で止まってしまっている。
深く彼の記憶が刻まれてしまって忘れることも出来なかった。

そして久しぶりの現世任務。

腕はにぶってはいなかった自分を褒めた。討伐を終え、各自解散をし、多少変わった村を眺める。
脳裏に彼がいるかもしれないと考えてしまったが、雑木林に行かず、あの時の神社へと顔を出した。

鳥居から中を見てみると誰かが手を合わせてお祈りをしていた。祈り終えたのか杖をつきながら歩いてくる。

私はただそれを眺めていた。



「死神か?」



私を横切る瞬間、声をかけられ驚いてよく見てみる。



「変わらないな・・、本当に。」

「あ、・・・あっ、・・・・!」



彼だ。彼だ彼だ彼だっ──。

固まっている私を他所に、前までゆっくりと歩いてくる。




「俺ももう直、そっちに行ける・・。」

「ど、して・・・なんで私に話しかけるのよ。」

「言えてなかったからな、好きだと。」



もう悔いはないと、彼はゆっくりと背を向けて帰って行った。これが最後に交した言葉だった。

最近ではもうさすがに生きてはいないだろうと思いにふけっている。虚化などしていないか、無事にこちらに来れて生活しているのか。色々考え続けて幾度と季節を繰り返していた。


それが今こうして目の前にいる。




「日番谷冬獅郎ね。」

「はい。」

「上の名前があるのね。」

「はい?」



初めて会った時、彼が言っていた言葉を真似してみた。それを聞いた彼は余計に私を変な風に見てくる。



「ごめんなさい。私の名前はあなたの名字あなたの名前。三席よ。」

「これからよろしくお願いします。」

「うん。・・・、訊いていい?」



彼は黙って私を見ていた。初めて会った時のように。



「なんでこの庭まで出てきたの?」

「歌が聞こえたからです。なんだか懐かしい気がして。」

「即興ですのでお気になさらず。」



懐かしくって思わず笑い出してしまった。すると彼は目を丸くして私を見続ける。



「すみません、俺たちどこかで会ってますか?初めて会った気がしなくて。」



私を思い出せないのは当たり前。

そのはずなのにな。



「案外、どこかで会ってるかもしれないよ。」




そしてまた、風と共に季節がめぐろうとしてる。









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