制服が重い。
質素なスカートを成る可く伸ばし乍、
早朝の陽の光を浴びる。
行ってらっしゃい、との言葉に、行ってきます!と返す。
あの人の名前は知らない。
少し前から、私の通学路にある少し古びた建物の掃除をする様になった人。
仄暗い噂もあったその建物は、今では見違えるほど綺麗に!
…とまではいかないが、あの男の人の朝の掃除はご近所さんにも好評らしい。
かく言う私も、わざわざ少し早めに家を出るのは彼と話す為でもあったりする。
後ろからの声に振り返る。
ちょいちょい、と指さす動作が可愛いよ、おじさん!現役学生の私よりきっと可愛いね!
家族を失い、一人ぼっちになった私を、親族の方は引き取って呉れたけれど。
家はまだ、余所者感が半端なくて、逃げる様に街に出ることも多い。
そんな時に、この人に出会った。
温かくて、素敵で、ふわふわしてて。
挨拶とプラス一言二言の関係だけれど、其れが心地良い。
でも、ある日から突然会えなくなった。
仕事が終わったのかもしれない。
放っておいたら、この建物はまた汚くなると思うけれど。
寂しかったけれど、いつまでも彼に頼ることも出来ない!
今度あった時、凄いだろッて自慢出来るように頑張らなくちゃなのです!
男の人のいなくなったその建物は、何だか…泣いてるように見えて。
誰にでもなく、声を掛けた。
同時刻。
一人の男が、巨大かつ凶悪な組織から姿を消した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。