私達はいつもの電車に乗った。
隆弘はくやしい~!と言いたげな顔をする。
でも、座りたいとか言うくせにお年寄りや妊婦さん、小さい子、怪我してる人を見つけるとすぐどうにかして座らせてあげる。
あんがいとてもいいヤツ。
ふと、隆弘の後ろの方を見るとベビーカーに乗った赤ちゃんが目に入った。
(か、かわいい...)
赤ちゃんは自分のこぶしを見つめ、そのまま口に突っ込んだ。
思わず笑ってしまう。
隆弘が後ろを振り向こうとした。
キーッッ
私はそれどころじゃない。
今、隆弘にいわゆる壁ドンわされている状況。
隆弘は苦笑いをする。
私は気が動転して上手く喋れない。
隆弘の肩越しに車内を見ると結構人が乗っていた。
そして、知らないおじさんが隆弘の背中にがっつり寄りかかっている。
私も苦笑いをする。
重がっている姿までもかわいい。
隆弘の息が少し耳元にかかる。
さっきっからドキドキが止まらない。
チラッと隆弘を見ると、目が合った。
誰が見ても分かるようなことを言ってる。
満面の笑みを浮かべる隆弘。
なんで貴方はそんなに可愛いの。
間近で喋られると私の心臓がもたない。
そんなに見てたかな、
相変わらず見え透いた嘘をつく私。
私はわざとらしく顔を背ける。
ぶにっと私の顔をつまんで自分の方へ向ける。
ニコニコと私を見てくる。
もう自分大嫌い。
いつもあまのじゃくな事を言ってしまう。
お願い、神様。
1分、いや1秒でもいいので
もう少しこのままでいさせてください。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。