第22話

🌘(2*2)
98
2026/02/25 03:00 更新
モールの奥にある小さなカフェは、昼のピークを少し過ぎていて、席にも余裕があった。
今野が先に注文を済ませ、矢花は窓際の席に腰を下ろす。
「ここ、静かでいいね」
「でしょ。人多いと話しづらいし」

トレーを置いて、今野も向かいに座る。
少し間が空いて、氷がグラスの中で音を立てた。

「さっきのジャケットさ」
今野が切り出す。
「ライブのときにも使えそうじゃない?」

「うん。ああいうの、意外とステージ映えするんだよ」
矢花はストローを回しながら言う。
「派手なのより、形がきれいな方が照明で映る」

「分かる。グループ的にも、最近そっち寄りだよね」

その言葉に、矢花は少しだけ考える顔をした。

「……正直、今はちょっと模索中かな」
「模索?」
「それぞれやりたい方向が見えてきてるっていうか」

今野は頷きながら聞く。
「でも、バラバラって感じじゃないでしょ?」

「そこは大丈夫」
矢花は即答した。
「意見ぶつかることは増えたけど、話す量も増えたし」

「話せてるなら、いい状態だと思う」

矢花は少し笑って、
「今野って、そういうところ冷静だよね」と言った。

「そう?」
「感情で突っ走らない感じ」

「突っ走る役は、もう十分いるからさ」

二人で軽く笑う。

少しして、今野がふと思い出したように言う。
「そういえばさ、この先どうするつもり?」

「どう、って?」
「仕事とか、生活とか」

矢花はカップを持ち上げて、一口飲んでから答えた。

「……同棲の話、また出てて」
「お、現実的」
「“現実的”って言うな」

「いや、悪い意味じゃないよ」

矢花は肩をすくめる。
「一緒に住むなら、スケジュール管理もちゃんとしないとだし。
中途半端な覚悟でやるのは違うかなって」

「ちゃんと考えてるんだ」
「考えざるを得ないだけ」

今野は少し間を置いてから、
「でもさ、そういう話が出るってことは、先を見てるってことだろ?」と言った。

矢花は一瞬だけ目を伏せて、
「……まあね」と短く返す。

窓の外では、人が行き交っている。
それぞれ違う目的地に向かって、違う速度で。

「グループもさ」
今野が続ける。
「この先、形変わるかもしれないけど、終わる感じはしないよ」

「今野が言うと、妙に説得力ある」

「年上の特権」

「自分で言うな」

また小さく笑い合う。

「でもさ」
矢花が少し真面目な声になる。
「変わるの、怖くない?」

今野はすぐには答えなかった。
代わりに、カップを持って一口飲む。

「怖いよ」
「……だよね」
「でも、止まる方がもっと怖い」

その言葉に、矢花はゆっくり頷いた。

「じゃあ、変わりながら続けるしかないか」

「そういうこと」

カフェを出る頃には、外の光が少し柔らかくなっていた。
買い物袋を持った矢花が言う。

「今日、来てよかった」
「買い物?」
「話せたのが」

今野は一瞬だけ驚いた顔をして、
「それなら、誘った甲斐あったな」と返した。

二人はまた人の流れの中に戻っていく。
でも、さっきよりも足取りは揃っていた。

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