「うぉっ!?
あなた!?」
振り返った悠貴が私を見て驚く。
「いたなら声かけろよー、怖いわっ。」
悠貴はそう言いながらこっちに来た。
「いや、邪魔しちゃ悪いかなぁって思って…。」
「あー、そゆことね。
そこのペットボトル取って。」
私は悠貴が指さす私の横にあるペットボトルを悠貴に投げてやった。
「うわっ!」
「お、ナイスキャッチ!」
私が投げたペットボトルを片手でキャッチするとは。
瞬発力はあるみたいだね、さすが。
「突然投げんなよっ。」
「ふふっ」
「何笑ってんだよー。」
そう言いながら蓋を開けて水を飲む。
「んー?
反応が面白いなと思って…」
「ほーか?
はれへもいっひょはろほほーへほ。」
ペットボトルをくわえたまま言う悠貴。
…子供か。
「『誰でも一緒だと思うけど。』」
悠貴の言葉を推測して言ってみる。
「正解。」
悠貴は親指を立ててグットポーズ。
そしてまた水を飲む。
どんだけ飲むんだ、コイツは。
「んんんんん!!!!」
ペットボトルの底を上にあげすぎたせいで大量に水が悠貴の体にかかった。
…うわぁ、バカだぁ。
そして悠貴は服の裾で顔を拭く。
「わ!ちょ!
お腹見えてるっ!」
私は目を隠す。
もー、人前でやめてくださいっ。
ちょっと、腹筋割れてた…。
って何考えてんだ私っ!
「は?
いつもの事じゃん、なに今更。」
「え…」
あれ…そう言われれば…。
なんでだろ…。
「あ、あと…」
「ん?」
「…ごめんね?」
なんか、幼なじみに改まって謝るの、恥ずかしい。
「なにが?」
「え、あの、朝、早く起こしちゃって…。」
「は。」
ポカンとした顔の悠貴。
「あ、だから昼休みもこんなに頑張って練習して疲れてるのに、朝早くから学校来させちゃって申し訳ないなぁー…と。」
「あぁ、そーゆー事か…。」
悠貴がどさっと隣に座り、仰向けになりながら言った。
「ンなん気にしてねーよっ。
それに遅刻せずに済んでるからむしろプラス効果じゃね?」
「え、だって今日機嫌悪かったーっ。」
「…まぁ、それは…嫉妬だよ。」
え…
「そ、それは、誰に対する…」
悠貴と目が合ってドキッとする。
「ー…にじ」
「!」
ドキドキと胸の鼓動が早い。
それって…
私のこと…
「…を独り占めしてるあなた」
「は?」
…。
な、なにそれっ!
からかわれたっ!!
「オレだってにじとイチャイチャしたいよぉ〜」
そう言いながら自分で自分の体をぎゅうっと抱きしめる。
「…はいはい。」
イライラを通り越して呆れる。
でも私は大人だから、何も言わないの。
「はぁ、つまんねぇなぁ。
つか、なんの用?
わざわざ謝るために来たんじゃねーんだろ。」
…お見通しなところにむかつく。
悠貴のクセにっ。
てか…すっかり忘れてた…!
「そう!
天野先生に頼まれてたの!
昼休み中に理科研究室に来いって言ってた!!」
「げっ、あなた、なんでそれ先に言わねーんだよっ!!
あと5分しかねーじゃねぇか!」
ガバッと起き上がる悠貴。
「ごめんっ、忘れてたっ!!」
悠貴がなんの用って聞いてくれなきゃ言わずに昼休み終わるとこだった…。
「ちょ、これオレの机の上置いといて、行ってくっから!」
「はーいっ、ごめん、行ってらっ!!」
悠貴のペットボトルと4時間目に使った教科書を受け取って、慌てて出ていく悠貴を見送る。
一人になって空を仰ぐ。
「ふふっ」
悠貴と普通に話せて、よかった…。
怒ってなくてホットした。
私、悠貴と気まずくなったら耐えられないもん。
幼なじみの縁、こんな所でぷっつり切りたくない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。