二人でいろんな写真を撮っているうちに夕飯の時間になった。ホテルの一階の大ホールに行ってバイキングを食べた。ここでも優翔は美味しそうに食べていた。
食べ終わってからは温泉に入った。もちろん別々。温泉の入口の前にある溜まり場みたいな所で待つことにしてそれぞれののれんをくぐった。
温泉に浸かりながら今日までのことを思い出していた。
自分の担任で数学の先生が恋人になるなんて思わなかった。複雑な家庭環境になってしまったせいで、正直大人が信じられなかった。そんな中で、先生、いや優翔は信じることが出来た。
優しい先生だった人が、気づけば好きな人になって。好きな人が今では、離れたくない人になっている。
それでも、ずっと一緒にいたいと思う度に、迷惑になるんじゃないかとか、私なんかで良いのだろうか、という考えが頭を駆け巡る。それでも、今日こうして一緒に旅行に来ているのは、優翔が全部受け止めてくれるからだ。
私が不安になると、「大丈夫だよ」「いいのいいの」の一言で安心させてくれる。なんの根拠もなくても、大丈夫なんだと思ってしまう。
改めて思う。やっぱり私は優翔が好きだ。
大きな声で胸を張って言えるような関係ではないけど、それでも好きだ。
早く大人になりたい。早く大人になって、胸を張って言えるようになりたい。
『私は優翔が好きだ』って。
温泉に浸かりながらそんなことを考えていた私は、きっとニヤニヤしていたことだろう。いったい何人の人から怪しいやつだと思われただろうか。
それでもいい!………いや、良くないか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。