第3話

2話 愛
151
2018/01/31 02:42
ことりが連れてきてくれたのは近場の水族館。深海から浅瀬、更には川の魚もいる幅広い水族館よ
久々に来たわね。前に来たのはいつだったかも覚えていないわ
西木野真姫
西木野真姫
キレイね……
南ことり
南ことり
お魚さんがいっぱいいて、カラフルでキレイだよね
私とことりは水槽の前でしゃがみこむ

今は熱帯魚のいる水槽のところにいるの。ことりの言う通りカラフルで水槽にイルミネーションが飾られたみたい
南ことり
南ことり
……いいよねぇ。自分だけの色が出せて、あんなにキレイで……
西木野真姫
西木野真姫
どうしたの?


ことりは羨ましそうに厚いガラス越しにいる熱帯魚を見ていた

私たちよりも小さい熱帯魚は気にせず優雅に泳いでいる
南ことり
南ことり
あの時は上手くいってるとか言ってたけど……実はそうでもないんだ
あの時っていうのは多分、焼肉屋でパーティしていた時のことだと思う。あんまり覚えていないけど

ことりは続けて言う
南ことり
南ことり
ファッションデザイナーとして活動してあるのはいいけど、なかなかいい評価が出ないんだ。ほら、お洋服って着る人に合うようなモノじゃないと、お洋服も着ている人の魅力を十分発揮できないでしょ?
確かに今までに見てきた人の中には、あの服じゃなくて別の服の方が似合うのに、もったいないって思う人はいたわね
そんな人がいるこの世界では、ことりならきっと「これは絶対に自分に合う」と思わせる服を作りたいと思うんでしょう。
南ことり
南ことり
それを意識して作っていたら逆に考えすぎちゃっていて……μ'sの衣装を作ってた時はそんなことなかったのに。いわゆる、スランプってヤツなのかなぁ……

今はそれすらもできない状態なのね
南ことり
南ことり
あはは……せっかくお母さんが見つけてくれたお仕事なのに、全然上手くできないなんて……顔向けできないよ……ぐすっ、うっ
西木野真姫
西木野真姫
ことり……
溢れ出した涙をハンカチで拭くことり
拭いても拭いても出てくる涙だけど、諦めずに拭い、そのハンカチを直そうとはしなかった

南ことり
南ことり
いいよね、熱帯魚さんは。こんなに自分らしい色が出せてっ。ことりもあんな風に、お洋服が作れたらなぁっ
ことりの涙も知らぬ熱帯魚は、ことりの目の前をそのまま通り過ぎていく。そして狙いの熱帯魚に追えば逃げられ、迫えらば逃げられのいたちごっこをしている

それでも、諦めずに追い続けた


西木野真姫
西木野真姫
愛情……なんじゃない?
南ことり
南ことり
えっ?
西木野真姫
西木野真姫
それに対する愛情でモノを美しくさせるんじゃない?
南ことり
南ことり
何それ、ふふっ

涙の笑みを浮かべた。美人よね、ことり
羨ましいのはこっちの方よ
西木野真姫
西木野真姫
さっきあなたが言ったことよ?
南ことり
南ことり
ことり、そんなに恥ずかしいこと言ってたっけ?
西木野真姫
西木野真姫
言ってたわよ。その口から
南ことり
南ことり
ふふっ。そうだったね。でも、言ってること、間違ってないかもっ
西木野真姫
西木野真姫
でしょ?
2人でまた水槽の中を覗く。熱帯にふさわしい景色だった
南ことり
南ことり
愛情で美しく……じゃあ、あの熱帯魚さんたちの色も愛情なのかな
西木野真姫
西木野真姫
まあ、オスはね
南ことり
南ことり
オスは?  じゃあ、メスは?
西木野真姫
西木野真姫
メスはきっと、オスの愛情を試しているのよ。だからあえて派手な色を身にまとっていないの。まぁ、それもまた愛情、なのかしらね
南ことり
南ことり
なるほどぉ
愛情を連呼したせいで恥ずかしくなってきた
ことりは私の顔を覗いてくすくすっと笑う。気にしているんだからやめてよね……


西木野真姫
西木野真姫
ことりはいつ向こうに帰るの?
南ことり
南ことり
実は明日にはもう帰るんだ。ごめんね
西木野真姫
西木野真姫
また寂しくなるわね
南ことり
南ことり
うん……


それから何分くらい経っただろうか。ことりは立ち上がって「帰ろっか」と聞いてきたので頷くなりして立ち上がった

南ことり
南ことり
ありがとう、真姫ちゃん。少し元気が出たよ
西木野真姫
西木野真姫
無理はしないでよ?
南ことり
南ことり
うんっ

私たちは水族館を後にした。





南ことり
南ことり
わぁ〜っ、キレイにできたねっ!
西木野真姫
西木野真姫
よかったわ
冷蔵庫で冷やしていたチョコを取り出した。
ことりの言う通り、キレイにできている。私も食べたいくらいよ

ギリと本命と分かれているけど、本命にはギリとは違って、愛情がたっぷり詰まっているのよ

南ことり
南ことり
……あれっ?  真姫ちゃん、このチョコは……
西木野真姫
西木野真姫
あ、ちょっ、見ないでよ!
冷蔵庫の中に入れていた私が作ったチョコの隣に、かわいい包装の中に入れられたハート型チョコが一つあった。チョコには「本命だよっ♡」とチョコペンで書かれている
南ことり
南ことり
貰っているじゃん、本命チョコ
西木野真姫
西木野真姫
いや、これは……違う人のだから……
南ことり
南ことり
希ちゃんの他にもいるの?  まさか二股……
西木野真姫
西木野真姫
変な勘違いしないで。そう思われたくないから食べないでおいてたの
南ことり
南ことり
そうなの……
ことりからチョコを取り上げて、また冷蔵庫に入れた
あのチョコにも愛情がいっぱい入っているのかな。でも私の好みじゃないし……食べる必要はないわよ、ね?
西木野真姫
西木野真姫
あ、ことり、これ……ギリだけど、感謝の気持ちを込めて……
南ことり
南ことり
ふふっ、ありがとうっ、真姫ちゃんっ
西木野真姫
西木野真姫
ゔ……別に、他の人にもあげるし、ことりだけじゃないのよっ!!
南ことり
南ことり
分かってるって〜。じゃあ、暗くなったし、私は家に帰るね
ことりは帰る支度をして、玄関口のおしゃれなヒールを履くと、ドアの取っ手に手をかけた
西木野真姫
西木野真姫
じゃあ……後悔だけはしないようにね
南ことり
南ことり
うん。ありがとね
これだけを言った

ことりはお辞儀をした後、手を振っていった。ドアは自然と閉まり、そこにことりがいなくなった
ことりが帰り、ふと思った


私、ことりに希のこと話したっけ……


思い違いだと信じ、そのままダイニングで残りのチョコに包装をする作業をした

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