ことりが連れてきてくれたのは近場の水族館。深海から浅瀬、更には川の魚もいる幅広い水族館よ
久々に来たわね。前に来たのはいつだったかも覚えていないわ
私とことりは水槽の前でしゃがみこむ
今は熱帯魚のいる水槽のところにいるの。ことりの言う通りカラフルで水槽にイルミネーションが飾られたみたい
ことりは羨ましそうに厚いガラス越しにいる熱帯魚を見ていた
私たちよりも小さい熱帯魚は気にせず優雅に泳いでいる
あの時っていうのは多分、焼肉屋でパーティしていた時のことだと思う。あんまり覚えていないけど
ことりは続けて言う
確かに今までに見てきた人の中には、あの服じゃなくて別の服の方が似合うのに、もったいないって思う人はいたわね
そんな人がいるこの世界では、ことりならきっと「これは絶対に自分に合う」と思わせる服を作りたいと思うんでしょう。
今はそれすらもできない状態なのね
溢れ出した涙をハンカチで拭くことり
拭いても拭いても出てくる涙だけど、諦めずに拭い、そのハンカチを直そうとはしなかった
ことりの涙も知らぬ熱帯魚は、ことりの目の前をそのまま通り過ぎていく。そして狙いの熱帯魚に追えば逃げられ、迫えらば逃げられのいたちごっこをしている
それでも、諦めずに追い続けた
涙の笑みを浮かべた。美人よね、ことり
羨ましいのはこっちの方よ
2人でまた水槽の中を覗く。熱帯にふさわしい景色だった
愛情を連呼したせいで恥ずかしくなってきた
ことりは私の顔を覗いてくすくすっと笑う。気にしているんだからやめてよね……
それから何分くらい経っただろうか。ことりは立ち上がって「帰ろっか」と聞いてきたので頷くなりして立ち上がった
私たちは水族館を後にした。
冷蔵庫で冷やしていたチョコを取り出した。
ことりの言う通り、キレイにできている。私も食べたいくらいよ
ギリと本命と分かれているけど、本命にはギリとは違って、愛情がたっぷり詰まっているのよ
冷蔵庫の中に入れていた私が作ったチョコの隣に、かわいい包装の中に入れられたハート型チョコが一つあった。チョコには「本命だよっ♡」とチョコペンで書かれている
ことりからチョコを取り上げて、また冷蔵庫に入れた
あのチョコにも愛情がいっぱい入っているのかな。でも私の好みじゃないし……食べる必要はないわよ、ね?
ことりは帰る支度をして、玄関口のおしゃれなヒールを履くと、ドアの取っ手に手をかけた
これだけを言った
ことりはお辞儀をした後、手を振っていった。ドアは自然と閉まり、そこにことりがいなくなった
ことりが帰り、ふと思った
私、ことりに希のこと話したっけ……
思い違いだと信じ、そのままダイニングで残りのチョコに包装をする作業をした
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。