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第1話

朝焼け〔卯月side〕
69
2017/10/23 01:58
藍花
見て見て~!卯月!この雑誌、
Venusの神也がめっちゃ載ってるの!
卯月
しんや?あー、あのグラサンね。
藍花
ちょ、卯月ひどぉ~~い💦💦
杉崎卯月、高1。15歳。
卯月
てか、何これだいたい。
『もし3つの願いが叶うなら?』って
インタビュアー、イカれてるでしょ笑
アイドル、イケメン興味なし。
好きな人?いませ~ん。
藍花
あ~、神也まじカッコよすぎー💕
ほんとに神だよ~
えー、この子は畔藤藍花〔ハンドウアイカ〕。
アイドル、イケメン大好物。中学から一緒にいる。
彼氏あり。ゆうたくんだか、こうじくんだか……
隣にいる人が、いつも違う気がする。
口出しはしないけど。
藍花
はーい、読みます!!

もし3つの願いが叶うなら?
1つ目、ファン1人1人に
『ありがとう』を言う!

え〰〰〰〰〰〰〰っっ!超優しい!!
しんやさん、めちゃめちゃ好感度上げようとしてるだろ。
藍花
2つ目!
1週間くらい休みをもらって
海外旅行にいきたい!

私も連れてって!神也!!
びーなすって、そんな忙しいの?
藍花
3つ目!
全国ツアーする!
うわぁ、それは実力でやんなきゃだめだろ~、
ひどいわぁ……
藍花
神也、Venus、
まじで一生ついてく!!
その夢叶えてくれ~💕
この間は他のグループに
一生ついてくって言ってなかったか?
もう、藍花の性格は分かってるからいいけどさぁ。
卯月
はいはい、私は部活行くから。
じゃあね。
藍花
えー!!卯月ちょっとぅーーー!!
ずっと藍花の話に付き合ってたら
部活に遅れてしまう。
止めないと永遠と話をしてるだろうからなぁ。
ま、それは置いといて。
私は中学校の頃から陸上部に所属している。
ここ、空野東高校〔ソラノヒガシコウコウ〕の陸部は
強いし、先輩も優しいし、やりがいがある!



うん、今日もいい天気!!
卯月
こんにちは!
梅山先輩
お、卯月ちゃ~ん!やっほ〰〰!!
今日も可愛いねーー!!
梅山有人〔ウメヤマアルト〕先輩。入部当時から
ずっと気に入ってくれてて、会って3ヶ月しか
たってないけど近所のお兄さんみたいな存在!
チャラいのはどうかと思うけど、いい人だと思う。
卯月
え、梅山先輩に言ってないです。
すいません邪魔です。

凰梨先輩、こんにちは!
梅山先輩
ちょっと、冷たいじゃん!
ま、そんなとこもいいんだけ…
凰梨先輩
おはよう卯月!
ほら、有人はナンパしなーい!
彼女は陸上部の女子部長、
浜口凰梨〔ハマグチオウリ〕先輩。
美人でスタイルがよくとても素敵な人!
梅山先輩
んだよ、浜口ぃ~。間入ってくんなよぉ~!
卯月
間入ってきたのは梅山先輩ですぅ!
凰梨先輩
そーだそーだ~!ばか有人ー!
梅山先輩
卯月ちゃん~…
はいはい、わかりましたよぉ。
そう言って梅山先輩は男子の元へ戻った。
私たち陸上部は、
女子8人、男子15人計23人の少数部。

私は、中学校の頃から陸上部で
100mHと走り幅跳びを専門にやっている。
中学校の努力の甲斐もあってか、
高校では、1年でただ1人
北関東大会の出場を決めることができたの!

今日は北関東大会に出る人だけ、練習をしてる。
北関東出場を決めたのは全員で8人かな?




3時間みっちり練習。

全員
お疲れさまでした~!!
梅山先輩
あーーー!!!
今日も疲れたぁ!
俺、めっちゃ頑張ったぁ!
卯月
自分で頑張ったって言えるうちは
頑張れてない証拠ですよ。
梅山先輩
わわ、真面目だな、卯月ちゃんは。
そう、私は真面目だ。
陸上バカだと自分でも思う。

今日もこの後、居残り練習をするつもりだ。
凰梨先輩
卯月お疲れ~!
また明日ね!
卯月
はい!お疲れさまでした!
梅山先輩
ねね、卯月ちゃん、今日一緒に帰らない?
卯月
ごめんなさい、
残って練習してくので。
梅山先輩
ふ~ん、
じゃ、俺も残ってくかな。
卯月
え!!
梅山先輩
なんだよぉ、悪いかよぉー
卯月
いや、そういうわけじゃ……
なんか、困るなぁ……
この時間は1人で集中してやりたいのに……
しかも、一緒に帰るのはあまり気が乗らない。
梅山先輩
卯月ちゃんさ
卯月
はい?
梅山先輩
ほんと可愛いよね。
しかも俺、努力家の人大好きなんだよね~。
にこにこ笑顔で言われる。
こういうとこ、めんどくさいしぃ💧
卯月
からかわないで下さい!
そんな冗談笑えないですから。
梅山先輩
ん~。
私は、ハードルを3台跳ぶ。

辺りは真っ暗でハードルが見えづらいが、
当たることなくうまく走りきれた。


近くに変な人がいて気が散ってるのによくできた!笑



息を切らしながら先輩の元へ戻る。
(正しくは、ハードルのスタート地点に戻る。)
先輩は腰に手をあてながら私のほうを見ている。
やだなぁ、やっぱ練習しづらいよ…

先輩と目が合った。
梅山先輩
やっぱさぁ、俺、卯月ちゃんのこと
好きだわ。
卯月
だからっ……
笑えないですって、
梅山先輩
本気で。

って、言ったら?




二人だけのグラウンドに沈黙が訪れる。

先輩は、いつになく真面目な顔だった。
卯月
先輩、それどういう意味…
梅山先輩
そのまんまの意味だよ。
俺、本気で卯月ちゃんのことが好き。
付き合いたいと思ってる。
あー、まさかのガチ告白パターン……
そんなこと思いもしなかった…

気まずくなるのは嫌だけど、
付き合うのはちょっと違う気がする。
断るしかないなぁ。
卯月
えーっと、先輩。
梅山先輩
今から俺、400m走ってくる。
52秒切ったら俺と付き合って?
はい?いや、なにドラマみたいなことしたがってんの?
400mが専門種目の先輩。
52秒とか、余裕で切れるタイムじゃないですか!
断られると言う選択肢はゼロでございますか!
勘弁ですわ!いや、まじで!!断りにくくなるし!
私はストップウォッチを握らされ、
先輩は無言でスタートラインに着く。
卯月
先輩!!!
ちょっと待ってください!💦💦
梅山先輩
何も言わないで。
タイムだけ計ってればいいから。
卯月
いや、そういうことじゃなくて!!
先輩聞いてください!!
梅山先輩
静かにしてろ!!!
もう、自分の世界に入っちゃってるぅ~泣
うん、もうこうなったら、
52秒切れないことを願うしかない!
お願いしますぅーーー!!
卯月
行きますー!!!

よーーーい
卯月
ドン!!!!
タタタタッ
きれいなフォームで梅山先輩が走り出す。
はやい、はやい、めっちゃはやい。
腹立つくらいはやい。
北関東決めてるだけある。
でも、今は速いのはダメなやつ。
お願い何か起きて。
こけて。もはやこけて。
私は胸の前で手をあわせて願う。
神様、お願いします、これから私何でもしますんで!
タタタタッ





私の願いはむなしく、何事もなく
ゴールのラインを踏んだ。

ピッ

ストップウォッチを止める。
梅山先輩
卯月ちゃん!!
どうだった!!?
おそるおそるタイムを見る。

















50秒26










……ですよねぇ泣
卯月
だめでしたぁ……泣
梅山先輩
え!!??だめだった!?
梅山先輩が、私の手から
ストップウォッチを奪う。
梅山先輩
50秒26…… 

え!?ちゃんとみてよ!!
めっちゃいいタイムじゃん!!
いや、私にとってはダメなタイムです。
梅山先輩
卯月ちゃん、俺やったよ!!
どや顔で私を見つめる先輩。
どうしよう~、最悪だぁ、
やっぱ断りにくくなったじゃんーーーー!!
梅山先輩が私の腕をつかむ。

……嫌だ。。
梅山先輩
卯月ちゃん……
そして私を引き寄せ……
卯月
嫌ぁぁぁぁぁっっ!!!!
ドンッ!!






梅山先輩は尻餅をついていた。
卯月
あっ…
え、どうしよう、ちょっと待って、むりむりむり。
梅山先輩
何で卯月ちゃ……
卯月
私、先輩とは付き合えません!!!!
校庭中に響き渡るような声で叫び



タタタッ


ええいっ!!退散だ!!!
はいていたスパイクを脱ぎ捨て
無我夢中でひたすら走る。

あーーーー、バックおいてきた!!!もういい!!
梅山先輩
何でよ卯月ちゃん!!
卯月ちゃんさっき、52切れるように
手、あわせて願ってたじゃん!!
後ろから嘆くような声が聞こえる。

はい!!!
切れないように願ってました!!!
ちょっとの間、先輩は呆然と
尻餅を着いたままだったが、我に帰ると
梅山先輩
そんなぁーーーー!!
俺、本気だったのにぃ~~!!
追いかけてきた~~!!
こーーーわっ!!!!
校門を出ていき、歩道をひたすら走る。
400専門の男子に勝てるわけないよぉ!
助けて!助けてっっ!
梅山先輩
卯月ちゃーーん!!
犯罪だよこれ、
ホラー映画だよぉぉぉっ!!

半泣きでひたすら走るが、後ろからの足音は
どんどん近くなる。
卯月
助けてっ!




バッ




卯月
えっ?
狭い路地に引き込まれる。
卯月
キャッ!
誰かに口を押さえられた。
誰?怖い……
梅山先輩
卯月ちゃーーーん??
どこだよ!おーーい!!
…梅山先輩よりましだから黙ってよう。
梅山先輩
くそぉっ!!
絶対俺のものにしてやるからなぁ!!
先輩はそう言うと去っていった。
卯月
あ〰〰〰〰〰っ!!
よかったぁぁぁ!
あれ?口が解放されてる。
後ろを振り返る。
???
…大丈夫?
卯月
あ、はい…
私は目の前にいる人物を特定できず
首をかしげていると……
???
ぷふっ

あはははははははっっ!
え?何?目の前にいる人は暗くて認識できないけど
声でわかった。男の人だ。
???
ふはっ
あはははははっっ!
何でこんな爆笑してんのこのひと?
卯月
あのっ、な、なんですか…?
???
裸足って、はやってんの?笑笑
ふはははははっ!!
足元に視線を落とす。

靴下だ。
卯月
あーーーーーーーっ!!
???
あはははっ!!
今さらかよおい~~笑笑
あっはっはっはっ!
また爆笑される。
卯月
急いでたんですよっ!!💦💦
ほっぺを膨らませる。
めっちゃはずい!!
???
なんか、やばい人に追われてたよね。
大丈夫?

あ、あと足も、怪我してない?
とても優しい声で尋ねてくる。
卯月
はい、大丈夫です。
あの人、部活の先輩なんですけど、
ちょっといろいろあって。
???
そうなの!大変だなぁ。
あ、俺助けて正解だったんか?
卯月
もちろんですもちろんです!!
いやぁ、もう本当に命の恩人レベル。
あそこで捕まってたら私どうなってたんだろ…
鳥肌がたつ。
???
よかったわぁ!
いや、裸足で女の子が逃げてるから
ほっとけなくてな!

裸足…、ふはははっ笑
思い出して笑ってやがる…
卯月
ちょっと、笑わないで下さいよ…💧
学校に、スパイクとバッグ
取りに帰らなくちゃ……
あ~~、もうめちゃくちゃ恥ずかしい。
顔が熱を帯びてるけど、きっと暗くて
相手には見えないだろう。
今だに私も、相手の顔を認識できてないし。
???
もしかして、空野東高校?
卯月
あ、はい、そうです…
???
やっぱり!
俺もそうなんだよね。
え!?高校生だったの!?
しかも、同じ高校!
???
俺、バイクだから送ってくよ!
卯月
いやいやいや!!!
そんな!助けてもらった上に
送ってもらうなんて!
私は激しく首を横に振る。
???
だって、さっきの先輩
まだいるかもしんないだろ?
マジの不審者いるかもだし。
確かに、それを言われてしまうとゾッとする…
もう、梅山先輩に会いたくない…
卯月
いや、でもやっぱり悪いですから…
???
あ、無免許だから心配してる?
それとも、俺がなんかすると思ってる?
あれ?そんなことは一瞬も考えてなかった。
確かに、そんな危険性もあるはずなのになぁ。
何でこんなに信用してるんだろ…
???
大丈夫、良いことじゃないけど
俺、中3からバイク乗ってるから!
バイク歴3年!
あとどうする?俺のスマホでも
預かっとく?
3年生の先輩…、梅山先輩や、凰梨先輩と同じだ。
どうしよう甘えちゃってもいいんだろうか。
???
ほうら、後輩なんだから遠慮すんなよ!
優しすぎる、いい人過ぎる…
卯月
すいません、じゃあ、お願いします! 
???
そうこなくっちゃ!
先輩が私の体を持ち上げて、バイクの後ろに乗せられる。
そして、ヘルメットを被された。
???
ほうら、ちゃんと捕まっとけよ!
先輩の腰に手を回す。大きな背中だ。
???
はっしーーーーーーん!!!
ブロロロッ

エンジン音を立て、颯爽とバイクは走り出した。
風が気持ちいい。ドキドキする。
???
どうだーーーっ!?
きもちいいだろぉーー!?
ゴーーーーーっっ
ブロロロロッ
卯月
風のせいで
何て言ってるかわかりませーーん!
ゴーーーーっ
ブロロロロッ
???
何ーー!?
風のせいで何て言ってるかわかんねぇ!
結局、お互い何も通じ会えないまま、あっという間に
学校についてしまった。
とてもとても、楽しかった。
なんだか、何が起こっているのか理解が追い付かない。
???
取ってこいよ!待ってるから。
卯月
え、あ、ありがとうございます!
ダッシュで取りに行く。
梅山先輩の荷物はなかった。
もう先に帰ったんだ!よかったぁ~~
投げ捨てられたスパイク。急いで拾って部室へ向かう。
しっかり靴を履き、バッグをつかんで急いで
先輩の元へ戻った。
先輩は暗闇のもとで待っている。
???
おかえり。
ちゃんと、靴はいたね笑
卯月
まだそれ、いじりますかぁ…💧
もう…
別にいいけどさ…
卯月
では、あの、いろいろ迷惑かけて
すみませんでした。
すごく楽しかったです…
???
はぁ!?
何、もしかして1人で
帰ろうと思ってんの!?
卯月
当たり前じゃないですか!
え、他にどうしろって…
???
ばっか!!
家まで送ってくに決まってんだろ!
女の子なんだからよ!
卯月
え……
何で初対面の私にこんなよくしてくれるの……?
ただのお人好し?
???
ほらっ!
ノーとは言わせないよっ!
再び私を持ち上げてバイクの後ろに乗せる。

なんでだろ…
梅山先輩に触られたとき、あんなに嫌だったのに
この先輩はなんか、、暖かい。
全然嫌じゃない。むしろ、うん。。
???
家までの道だけ教えてな。
卯月
はい、すみません。
初対面なのに…
???
何だよ、謝ってばっかだなぁ。
俺こそ、おせっかいな先輩で
悪いな笑
卯月
何で先輩が謝るんですか!
全然悪くないです、
むしろ嬉しいです!
なんか…自然と私、すごいこといった気がする。
自分らしくない。
???
そんなこと言ってくれたら、
こっちも人助けしがいがあるなぁ
へへへっ
この人、ずっと笑っててほんと暖かい人だ。
一緒にいて心地いい。おかしいのかなぁ?
???
はい、じゃあ、ちゃんと捕まって!
先輩の腰に手を回す。
大きな背中。
その背中にほっぺたをくっつけてみる。
自分の鼓動が早くなった気がしたけど、
やっぱり心地いい。
???
はっしーーーーーーん!!!
卯月
おーーっ!
控えめにノってみる。
???
おお!!
いいねいいねっ♪
テンション上がっちゃうよ!
ブロロロロンッッ

大きな音を立てて元気よく走り出す。
卯月
ちょっ!!
テンション上げなくていいです!
安全運転でっっ💦💦
ブオーーーーーーンッ
???
ひゃほほ~~いっ!!
私の言葉なんて、そりゃもうことごとく無視で
さっきよりも速いスピードで夜道を駆け抜けていく。

全く怖くないと言ったら、まあ、嘘になる。

でも、でも……
何よりも……
???
楽しいだろぉーーー!!!?
卯月
はいっ!!
すっごく!!!
こんな爽快感を味わったのは初めてかもしれない。

しかも、なんの根拠もないけど、この先輩は
安心感があるんだ。
この人になら身を任せられる。
???
この道どっち曲がるのーーー!?
ゴーーーーーっ

風の音が激しく響く中
どうにか先輩の声を聞き取る。
卯月
左ですーーーーーっっ!!
ゴーーーーッ

バイクが右へ曲がった。
卯月
はぁーーーーっっ!?
先輩ぎゃくですーーーーっ!?
???
なんだってーーー!?
右っつったろーー!!!
卯月
言ってませんーーー!
左って言いましたーー!!
ちゃんと聞き取ってくださいーー!
ゴォーーーッッッ

大声で言葉を交わし合う。
卯月
あ、じゃあ、そこ左です!!
バイクがキキーーーッと危なげな音を立てて
減速する。
???
あぁんっ!!?
言うの遅すぎだっつの!
卯月
危ないです。
もっと慎重に運転してください。
命背負ってるんですよ?
???
こーのっっ!
ここで下ろしてってやろうか!?
卯月
でっきなっいくっせに~~
優男ですもんねぇ~~
???
う、うるせぇーーーっ!
軽快に言葉を交わしながら
二人だけの夜を進んでいく。
風に所々、言葉を邪魔されながらも、
先輩とたくさんの話をした。

梅山先輩と何があったのかや、高校の先生のこと
などについてたくさん話した。
梅山先輩と同級生だといっていたから、受験生だ。
勉強については一切触れなかったけど笑
先輩は、話ながら、私の話を聞きながら、
ずっと笑っていた。太陽みたいな人だった。

すごく楽しかった。
幸せで、なんだかふわふわしていて、夢みたいな…
卯月
そこ、右です…!
だからこそ、終わりが来るのも早くて
私の家へ向かう最後の角を曲がった。

なんだか寂しくて仕方なくて、
先輩の腰に回す手に力を込めた。
卯月
ここです!
ブロ…ブロ…ロロロ…

エンジン音が闇に消えて行く。
バイクは止まった。
バイクから降りる。
卯月
先輩、今日は本当に
ありがとうございました。
深々と、今までに下げたことないくらい頭を下げる。
卯月
とても楽しかったです。
私、杉崎卯月っていいます。
良かったら名前、覚えて下さい!
普段、自分の思いを伝えるのが苦手な私だけど、
先輩にたいしては、素直になれた。
???
俺も久々に楽しかった。

名前、よく覚えておくよ。
俺記憶力はいいからさ!

???
杉崎 卯月さん。
名前を呼ばれてドキリとした。
なんかくすぐったい。
卯月
あ、そうだ!
先輩の名まえ…
ガチャッ




背後から、ドアの開く音が聞こえた。
家の玄関からの光が、先輩の元へ届く。



初めて先輩の姿が見えた。
卯月
……太陽?
暖かい、温かい…

まるでほんとに太陽のような…
お母さん
卯月~?
帰ってきたの~?
私は、後ろを振り向く。
卯月
あ、お母さん、ごめん…
ブロロロ…

エンジン音が鳴る。
卯月
ちょっと待ってっっ!!!
ブオーーーーーーンッ



私が言葉をいい終えたときには、
もう先輩の姿はなかった。
心臓がドクドク言って、鳴り止まない。
腕にはまだ、先輩の温もりが残っている。
太陽のような温もり。
お母さん
卯月、誰?今の…
卯月
分かんない…
とても、眩しい人だった。
名前を告げずに消えてしまった太陽。
お母さん
もしかして、彼氏とかぁ~?
卯月
違う…
そう言うと、なんだか寂しさと
喪失感が込み上げてきた。

何もない暗闇に、先輩の面影だけが残っていて
ただただ、それを見つめていた。

しばらくそこから動くことができなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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