あぁ、皆様お久しぶりでございます、本日もご機嫌いかがですか?
最近、キリカ様がやたらと楽しそうなのです。
何かいいことでもあったのでしょうか?
にしたってキリカ様は本日もお美しい!
シミひとつない真っ白のワンピースを惜しげもなく着こなし、いつもの余裕の微笑み!
そりゃあ当たり前なんですけどね、私共がこの美しいご主人様にシミの付いたドレスなんぞ、お渡しできるわけもございません。
真っ白のワンピースをお召しになって歩いておられる姿はまさに天使!
地上に舞い降りた天使とは、まさにキリカ様のことだったのではないでしょうか!
はぁ~~~~~!!!!
『私のご主人が今日も尊い!!!!!!』
「何をしているの?」
『ひぃ!!!キリカ様、お帰りなさいませ!』
夕方を過ぎても衰えない美貌、
まさにファビュラス!!!!!
美しゅうございます!!
後ろの長瀬さんにちょっとだけ睨まれたけど、そんなこと全く気にしません。
だって、キリカ様に会えた!
それだけでハッピー!!
「夕食はいらないわ、
この後呼び出されているから。」
『お出かけですね、承知いたしました。』
「ねえあなた、ここって何があるんだと思う?」
携帯をこちらに向けて、桐姫様が私に近づいてこられたのですが…。
いやいやいや待ってください近いです近すぎます、我がご主人ながらに輝きが強すぎます!
卒倒しそうになる意識を何とか引き戻して携帯をのぞき込むと…
『は…?焼き鳥?』
「こんなお店初めて見たわ?何が美味しいのかしら?」
『あーーーーー…ローストチキン?』
焼き鳥という庶民食だなんて言ったら、この方どんな顔されるんだろう…。
怖くてとても言えなかったのですが、そうなのね、と何かを納得したキリカ様はとても楽しそうで…。
良心が…痛む。
「お前、とんでもない嘘つきやがって…」
『長瀬さんなら言えますか、あれが庶民食で
きっと店もうちの倉庫より小さいですよ、なんて!』
「……」
『長瀬さん!!』
「言えん…」
ほら見ろ!!!!
「なんでお前までいるんだ!!!」
『大きな声出すと聞こえますよ~』
「なんで、お前がここにいるんだと聞いている」
『心配だからに決まってるじゃないですか』
「俺がいるのにか?」
『ええ。』
「即答するな!」
窓の外からはりついて、キリカ様と向い合せに座るやたら整った男を見つける。
あの男が、キリカ様をこんなとんでもない庶民のお店に呼び出した張本人ですね…。
甘いマスクの裏側に、どんな本性を隠し持っているのやら、末恐ろしい男でございます。
『なんなんですか、あの男』
「この間話しただろう、トリリオンゲームの…」
『高身長イケメンとオタク眼鏡の二人組?』
「キリカ様に宣戦布告した挙句ワンナイトなら付き合ってやると言わしめた…」
『ワンナイト!?!?!?』
おっと失礼、自分でもびっくりするほどに、大きな声が出てしまいました。
失態失態…、と思えども。
隣の長瀬さんも、ものすごい形相でこちらを見てくるじゃないですか。
なんでそんな顔してるんですかやめてくださいよ…。
「ママー、変な人がいるよー?」
「しっ……見ちゃいけません!」
「『おい、変質者』」
子供というのは、純粋で時にその純粋がとても大きなダメージになりますね…。
刺さったぞ、少年…。
『ばれてますかね…』
「こちらを見ていないからばれてはいないだろう…」
『壁が厚いことを願うしか…』
にしたって、焼き鳥の串を外していく姿はいつものように優雅で…!
キリカ様がお召し上がりになれば、焼き鳥も高級料理の仲間入りですね!
『ん?』
「どうした?」
『あんの男…』
あろうことか、キリカ様の正面に座っている明らかなイケメンは、串から直接焼き鳥をかぶりつくようなジェスチャーをされて…。
「なんっということだ…」
『ワイルドぉ…』
「は?」
『なんですか?』
無邪気な笑顔で、串からそのまま焼き鳥を頬張っておられるキリカ様は、いつもの美しさに加えて、花のようなかわいらしさもあって、更にちょっとワイルドな魅力がでてチャーミングなのです!
こんな素晴らしいキリカ様を前にして、惚れない男がいるものか!
いや、こんなどこの馬の骨かもわからないイケメンに惚れられても困るんですけど!
「お前…ほんとキリカ様のこと好きだよな。」
『ええ、大好きですよ?
麗しいお姿や立ち居振る舞いも、豊富な知識も、
どんな相手でも屈しないしなやかな心も。』
「ええい、早口で捲したてるな!」
ただ、キリカ様を好きだというだけではありません。
私の好きはリスペクトなのです。
キリカ様は、もちろんお生まれも素晴らしく、生まれながらにお美しく、人の中のトップに立つことができるお方です。
しかしながら、キリカ様が素晴らしいのは、その才能に胡坐をかくことなく、学べることは全て学び、自らトップに立つための気品を身に着け、今もその努力を欠かさず行い、常に美しく強くある努力をされていることなのです!!!
「…おまえ、黒龍の家に勤め始めて
まだ3年目だったよな?」
『それがどうかしましたか?
愛に年数は関係ありません。』
「真顔で言うな!!」
『さてと…キリカ様に見つかる前に
私帰りますね~』
「もう遅いわよ、あなた、
こんなところで何をしているの。」
『( ˙꒳˙ )ヒュッ』
私が絶対服従する、美しい凛とした声が耳元に届いて、ゆっっっっっくり後ろを振り返ると…
『キ、キリカ様…』
「あなた、私、言いつけを守らない子は嫌いよ?」
『申し訳ございません!!』
またもや直角90度、我ながらよく止まれるよなというスピードですが…
この間もこんなことありましたよね?
あ、今度こそだめ?
許してもらえない??
私終わった?
今度こそ終わっちゃった???
「いつまでそうしてるの、帰るわよ?」
『え?』
「あら、帰らないの?」
『帰ります!帰ります!!』
「ったく…騒がしいやつだ。」
長瀬さんに小突かれながら、キリカ様と車まで一緒に歩いた帰り道は、私、絶対に忘れません!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!