えー、皆様お久しぶりでございます。
お元気でお過ごしでしたか?
私に会えない期間は寂しかったですか?
お前がいたらうるさくてしょうがないわって人いましたよねきっと?
さて久しぶりに私の日常をお届けいたしますけれども…、いきなりですみませんがひとつ言わせてください。
どうしてこうなったんです?
「本気で相手をしてちょうだい、
手加減とか接待とかしたら許さないわよ」
『しかしキリカ様…』
「私が良いと言っているのよ。」
畳の部屋、私の正面でにこりと微笑んだキリカ様は、
矢絣の袴にハーフアップで、後頭部には大きなリボン…はい〇らさんが大渋滞です…。
そして私たちの前には、綺麗に並べられた取り札…百人一首ってやつですね。
対戦相手がいないからと、掃除中のところを引きずられてきたのですが…。
かたや袴の超絶ファビュラス美女、かたや眼鏡の根暗陰キャメイドって…どんな組み合わせですか…。
「ルールはわかるわね。」
『もちろんです、もともとやっていたので…。』
「じゃあ大丈夫ね、始めるわよ?」
『わかりました…。』
やるなら集中しないと…。
神経を研ぎ澄ませて、耳を澄ませるこの感じとても久しぶりですね。
百人一首は互角、手は抜くなと言うのがご主人の指示なのですから、そのようにしているのですが、私、その昔かるたクイーンだったんです。
その私と互角ですか?
キリカ様…本当に何者ですか?
わが主人ですが恐ろしすぎます…。
何とか競り勝てるか…いや、負けるか?と言ったところに、耳なじみのある音。
あぁ、勝ったら長瀬さんには怒られるかな…、申し訳ございませんキリカ様…この勝負、いただきます!
「あm…」
『はい!!』
「…、早いわね。」
条件反射、でした。
当時から得意だった札なので…、つい体が勝手に反応してしまうのです。
《天つ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ》
僧正遍昭の有名な一句、宮中行事の踊り子を見て即座に詠んだ一句だということだそうですが…、僧侶のくせに何詠ってんだって感じですよね??
っていう嫌悪感で覚えて、得意になった句。
経緯が酷いですね、我ながら。
「あぁ、僧正遍昭の恋の歌ね。」
『はい、キリカ様。
僧侶のくせに恋の歌なんて、煩悩まみれですね?』
「あら、一説によると、僧正遍昭のこの歌は
僧侶になる前に読まれたという説もあるそうよ?」
『なんですって。』
いつものように美しく微笑んだキリカ様は、あーあ、負けちゃったわと言って、椅子に腰かけいつもの調子で紅茶を飲んでおられました。
次の一言に、私も読み手を務めていた長瀬さんもみんなが、この主人の突発的な一言でとんでもない顔をすることになるのに、何ともまったりした時間でした。
優雅に紅茶を傾けるその様子が絵になって、こんな美しい方が対象にいらっしゃったなら、きっと老若男女どんな方もキリカ様のことを放っておかなかっただろうなと思っていたのです。
「あーあ、私の周りにも色めいた話の一つや二つないのかしら。」
『キリカ様、またそんな無茶を…』
「あなた、あなた、好きな人はいないの?」
『………、はい?』
今、なんておっしゃいました?
そんな衝撃的な発言のあったお正月からおよそ1ヶ月がすぎた頃、私もキリカ様についてご一緒にお仕事に向かっている最中でした。
そもそも何故か、最近キリカ様は私を連れていきがちなのです。
一応メイドなんですよ?私。
お部屋のお掃除とか、本来そっちが仕事なんですよ?
ことのきっかけは、私が焼き物の真贋を見抜いたことなのですが、そこからなぜか私はキリカ様のお気に入りのようなのです。
というか本人に言われちゃったし。
「私、あなたのことが気に入ったみたい。」
あの時のキリカ様の微笑たるや…可愛いことは言わずもがなですが殿上人の微笑と申しましょうか、まあそもそも殿上人にお会いしたこともなければそんな権利も私にはないんですが!
神々しい上に美しくきらびやかで可愛らしいのでございます!
そんなキリカ様曰く、私を外に出すたびにご自身のお洋服を用いてまで着飾る理由は、
「綺麗なものを、もっと綺麗にしたいと思うのは、
当然の心理でしょう?」
なんだそうです。
笑顔で言われ引き下がるしかありませんでした…。
基本的にメイドという生き物は、主人に勝てるはずもないのです…はぁ。
そもそも!!!キリカ様の!
きらびやかで美しいお召し物のおひとつを借りて、お隣に並ぶんですよ!?
恐れ多いと思いません?
何の権利があって私などがキリカ様のお隣に…!!!
しかしながら、それに対してなぜ???と疑問を持つ隙間すら与えてくれない…。
『キリカ様、本日はこちらにどのような…。』
「打ち合わせよ、テレビ関係のね。」
『どうして私が?』
「決まってるじゃない、あなたも出るからよ。」
『なんですって。』
こんな!!!!こんな!!!!!
根暗陰キャオタクが!?カメラの前に!?
なぜですか、なぜなのですかキリカ様!?
口をあんぐりと開いてパクパクしていたら、そんな顔しないのと窘められてしまいました…そんな姿すら美しいです…。
そんなキリカ様を見た視線の先にいた、キリカ様と同じくらいか少し劣るほどに、眩しくファビュラスなお方を見つけてしまいました。
出会ってしまったのです、運命の人に!!!
「あなた?どうしたの、急に立ち止まって。」
「キリカ様、これ聞こえてませんね多分。」
スラッと美しい長身に小さなお顔はまるでお人形のよう…整った目鼻立ちは…ハーフでしょうか?日本人のものとは思えませんなんと美しい!
つややかな黒髪とはにかんだ笑顔は、大人っぽい魅力の中に無邪気さをのぞかせ、美しい瞳は黒曜石のようにキラキラと…。
奥の方から出てきて日の当たる出入り口のほうへまっすぐ颯爽と歩いて行かれた…。
『自動ドア…彼の行先 閉じてまえ
美男の姿、しばし我が目に…』
「奥ゆかしさの欠けらも無いな」
「美しくないわね。」
『はっ…!?、申し訳ございません!!!』
あぁーーー…終わった。
この時の私は気づかなかったのです、この出来事をきっかけとして、私がキリカ様の悪戯心に火をつけてしまったことに。
どうもどうも雪華です!!
一度はしめたこの作品ですが、この度とんでもないネタを思いついてしまったので、一時的に復活することにしたのです!
今回は二話編成、次週、事のもろもろが明らかになります!
さてさて相変わらずぶっ飛んだオタクメイドちゃんですが、今回は何と彼女に春が来るかも!
キリカ様しか見えませんキリカ様至上主義のオタクメイドちゃんの恋のベルをリンゴン!と鳴らした長身イケメン美青年はいったい誰なんでしょうね?
今日と次週更新するこの二作は、トリリオンゲームの本編には全く関係のないスピンオフ作品です。
まあもともとキリカ様のお家をベースにお話作ってる時点で本編も何もないんですが!!
トリリオンゲーム本編が好きだよ!って方がもしいらしたら、この作品はもしかしたらお気に召さないかもしれません。
チャーミングなキリカ様にわがまま言われたいって方は読んでみてください。
オタクメイドがあなたの腹筋を
ツイストしに行きます(笑)
それでは次週もお楽しみに!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。