テストが終わり、勇太が体を少し壊してしまったため4人で集まるチャンスが出来たのは夏休み1日目。
気がつけば8月だ。
テストはまあ出来た。
親にも褒められたし、友達にもすごいと言われた。
でも、ずっと疲れていた。
私はテストが終わってから異様なほどテンションが高い。
知ってる、これは菜美にバレないための自分の底力だ。
夏休みに入った事で、菜美と会わない。
だから、今日の私は気を使わなくていい。
そう、ほっとする反面に夏休みは授業が無いので陽貴と廊下ですれ違うことがない。
たった一瞬の会話さえも出来なくなった。
癒しがない。
「あの…さ。悠花、ちょっといい?」
ぼーっとしていると幸に声をかけられた。
「階段の修理が終わったから、4人で話せなくなっちゃう。せっかく今日から4人なのに…。」
幸が悲しそうな顔をして言う。
その言葉に対して慰めの言葉もすぐに出てこない。
幸が私の顔をじっと見つめていた。
何か言葉をかけないといけないと思い、言葉を選ぼうとした。
「悠花からするとどうでもいい事か、ごめん。」
もう遅かった。
幸は元いた場所に戻って行った。
(あたしは幸を傷つけた。)
幸が走って行く姿を見て我に返った。
幸の話を聞かなかった。
聞きたくなかった。
毎日会える、毎日話せる。
そんな幸に嫉妬した。
4人で話すことがなくなればいいとさえ思った。
私は幸の方を見た。
幸は何事もなかったようにラケットを振っている。
(幸に謝らないと…。)
結局、話すタイミングがなく帰りになった。
真由と幸の3人でいる時はいつも通りだった。
真由と別れた後、気まずい雰囲気になった。
「幸?さっきはごめん、あのさ…」
「もういい。私こそ無理させてしまってごめん。」
「考え事してたから、頭が回らなくて…、でね?考えてみたところ、幸と話が盛り上がってるってあたしは言ったから大丈夫じゃん?」
「…え?」
「逆に階段の修理終わったタイミングで辞めちゃう方がおかしくないかな?」
幸はしばらく考えて、理解したのか笑顔になっていた。
「そっか、よかった!さっきは本当にごめん。」
幸と仲直りした後、いつもの場所に行くと2人はいなかった。
(あれ?先に帰ってたよね…)
幸と話しをしながら待っていた。
でも、結局来ることはなかった。
その後もマンションの下で4人で話すことはなかった。
勇太と奏良がマンションの下で喋っていないわけではなかった。
2人は私と幸が来たことを察しては先に帰っていたのだ。
幸は嫌われたってことだよね?っといつしか口癖のように言ってきた。
勇太と奏良と幸と私が会話をしたのは二学期の始業式前日にあった花火大会の日だった。
部活のみんなで行こうということになり、男子5人も女子3人の計8人で花火大会に出かけた。
幸と真由が喋っているため2人の後ろに1人で歩いていた。
すると、新太郎から声をかけられた。
新太郎は宮 新太郎という名前から【宮しん】とみんなで呼んでいた。
とは言っても、小学校は違うかったため部活以外で会うのは初めてで正直びっくりした。
「二ノ宮、ぼっちかよ笑」
「宮しんもぼっちじゃんか!」
「奇数奇数だからそーなるよなっ/」
新太郎とよそよそしく話していたもののノリの良い新太郎に影響されて段々と楽しく話せるようになってきた。
ただ新太郎は度々、前にいる幸と真由の方をチラチラと見ていた。
「宮しん、ひょっとして2人のうちどっちかのこと好き?」
小声で聞いてみた。
「えっ、やっそんなことねぇ/……って言っても態度でバレバレか笑」
そのままどちらだと問い詰めると真由だった。
「ちっちゃくて可愛いかー…青春ですなぁ」
「うるさい!二ノ宮はいないのかよ。」
そう言われて一瞬、頭が真っ白になった。
慌てて視線を逸らして、逸らしたことを後悔した。
逸らした先には菜美と陽貴が楽しそうに歩いている。
私のコロコロと変わる表情、菜美と陽貴を見た時の表情で新太郎に一瞬でバレた。
陽貴とは小学校が違うため、新太郎は陽貴のことを知らないと思っていたが何故か知っていた。
【あ、縄田って奏良の…】
小さい声だったため、本当にこう言ったのかはわからない。
だけれど私にはそう聞こえた。
新太郎の男子4人は私と新太郎の後ろを歩いていた。
私がしばらく固まっていると、
「今、前見るなよ。」
勇太が奏良に向かってそう言った。
自分もショックを受けていたこともあり、菜美と陽貴のことだとすぐにわかった。
後ろを振り返ると奏良が悲しい顔で大丈夫だよっと言っていた。
(そっか、真瀬も失恋してたってことか…)
「真瀬、同じだねっ。」
励ましのつもりで気が付いた時にはそう言っていた。
(あ、しまった…)
横では私の失態を馬鹿にして新太郎が大笑いしている。
「え?二ノ宮どういうこと?」
「いや、なんでもない。」
逃げるように前を向いた。
そこから私は真瀬を無視して、幸と真由の話に入った。
その日の帰り、中学校前解散にしたため勇太と奏良を含んだ5人で帰っていた。
真由と明日から頑張ろ!という会話をして別れた。
その後、久しぶりに4人で喋った。
久しぶりに話したというのを感じさせなかった。
だけど、奏良は意識が何処かに行って今にも泣きそうな顔をする時が何度かあった。
それは菜美と陽貴のことだろうなと痛いほどわかった。
奏良が辛そうな顔をすると私も思い出してしまいそれを見るのが辛かった。
結局、私は親に帰って来いと言われたと言い、久しぶりの4人で喋っていた時間を潰した。
本当は3人で続けてもらう予定だったが、奏良がそれなら帰ると言ったため解散となった。
そこから流れ的に私は奏良と帰ることになった。
初めて2人で帰るというのにお互い何も話さなかった。
私は何も話したくなかった。
きっと、奏良も同じ気持ちだったのだろう。
気がつけば私は奏良は菜美が好きで失恋したのだと思い込んでいた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。