日が出てきた。
明るくなったとともに、私は目を覚ました。
夜明け、つまり起床時刻だ。
私は屋敷の中央にある『奉り』と呼ばれる部分に向かい頭を下げた。
そしてそのままそとに出て川の水で顔を洗い、正装に着替える。
今日は十日、『厄祓いの日』だ。
九時から十二時間、祷りを捧げ続けなければならない。
なので、学校も休む。ご飯も食べない。
毎月十日、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
でもまあ、慣れてしまえば何でもない。
人生でもう二百回以上やってきているのだ。
そう、これが
少女・暁あなたの日常だ。
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名家暁家では、仕来りを非常に重んじている。
今日のように毎月十日は祷りを捧げたり、
結婚時の挨拶にだって仕来りがある。
そして、『特別扱い』される者も当然いた。
私もその一人だ。
私は、『呪いの子』だ。
大災害や、邪気を放つとされる『呪いの子』。
その多くは名家や、大家、旧家と呼ばれるような古くからある由緒正しき家柄に、
何十年に一回というペースで生まれる、不可思議な存在。
私はそんな『呪いの子』として生を受けた。
…あれ?私は何に向かって話したんだろう?
まあいいや、と私は思った。
それに、あと10分ほどで九時だ。
『祷りの舞い』が始まる。
一秒でも遅れれば、神が私のことを殺す。
そんなものは迷信だ、と思うこともあったが、
それもどうでもよくなった今、私には気になることもない。
私はため息をつくと、舞の部屋に入り集中を始め…
ようとしたそのとき。
何者かが私の家に侵入してきた。
その時、私は唐突に、
『逃げなくては』と思った。
私は立ち上がるとどこかへ向かって走った。
どこに向かっているかも分からなかったけど
とにかく、逃げられるなら何でも良かった。
混乱しすぎて、最早なにか冷静だった。
私の家に入ってくるのは、お父様とお母様だけだった。
知らない人が、何でここに?
本能赴くままに逃げていた。
しかし、そこまで広くない家をずっと追いかけっこするなんて、もとから無理なわけで。
あんなに混乱していたはずなのに、話してみると意外と冷静に話せて。
もう全てに驚いていた。
そらると呼ばれた青髪の人は、少し顔をしかめると
と言った。
その声は落ち着いていて、世間で言うイケボとおう部類にはいるのでは、と考えていた。
うそ、でしょ?
私が時計をみると、とうに九時を回っていた。
そう言うとお父様は私の頬に拳を沈めた。
私は殴られて数秒息を止めると、すぐに床に頭を擦り付けた。
えっと…そらるさん、様?
青木家…?
なんだか聞いたことのある名前のような。
いえあの、指示語が多くてですね…
分からないけど…
多分、生活はできていると思うんですが…
…え?
えええあえあえ?
は、へ、ふえ?
どどどどど、どういうなが…!
お父様、ほんとそれです。
退、屈…?
そうだ。私は暁家の人間だ。
だから行くわけには…
猪狩に震えるお父様。
『あなたは、何がしたいの?』
そんなこと、久しぶりに言われた。
でも、分からない。
そんなの、分からない。
私にそんなことを言わないでほしい。
ならば…
私がそう言うと、そらるさん様はビックリして目を丸くしたがニヤリと笑って手を差し出した。
言い名前してんじゃん
と彼は言うと、ふわぁとあくびした。
私はその人の手を、興味本位でとってしまった。
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作者・うん
作者・非情に語彙力がない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!